イチロー「奇跡の60試合」。メジャー短縮シーズンでその偉業に再注目 (4ページ目)

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton
  • photo by AFLO

 シスラーが持つ257安打に到達するには、残り44試合で68本のヒットを打たなければならない。いくらすぐれた打者とはいえ容易なことではない。ただ、7月1日から驚異的なペースでヒットを積み重ねていくイチローを見れば、決して届かない数字ではないように思えた。

 ところが、思わぬアクシデントがイチローを襲う。4安打した翌日の試合で、ロイヤルズの新人が投じた146キロのストレートがイチローの頭部を直撃。その場で倒れこんだイチローは交代となり、その後、軽い脳震とうと診断された。記録達成のためには1試合も無駄にしたくないが、翌日の試合は休まざるを得なかった。

 しかし、野球の神様はイチローに味方した。19日の試合は、雨により中止となったのだ。そして20日からのデトロイトでのタイガース戦でスタメン復帰したイチローは、何事もなかったかのように3連戦で16打数7安打の活躍。新記録更新に向かって加速した。

 このイチローの止まらぬ活躍に、つい2カ月前にイチローへの辛辣な記事を書いたESPN.comの記者が、珍しく頭を下げて謝罪文を掲載したのだ。

「申し訳ございませんでした。以前、イチローの衰退についての記事を書きましたが、ずっと打ち続けています。この場を借りて謝罪させていただきます」

 8月26日、シアトルでのロイヤルズ戦の9回、イチローはセンターへ7号ソロを放った。この一打で、イチローは史上初となるルーキーから4年連続200安打を達成した。126試合での200安打到達は1930年以来、74年ぶりのことだった。ひとつの目標をクリアしたイチローは次のように心境を語った。

「常にプレッシャーを感じていられる選手でありたい」

 シスラーの記録まで残り36試合で57安打となったイチローは、目の前に迫る大記録について、このように話した。

「勝手に期待してもらって結構です。ただ、短期の目標をしっかりと立てていきたいです。257? それが具体的にイメージできるような状態にしたいですね」

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