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無名の浪人投手・岩瀬禮恩 ナックルボールを武器に砂漠の摩天楼ドバイで夢をかける異端の挑戦 (4ページ目)

  • 阿佐智●文 text by Asa Satoshi

 ネット裏で見ている我々は、なぜかそのボールの動きにつられて上半身を揺らしてしまう。その後、右打者の懐に落ちる球は、まだ完全にはコントロールできていなかった。しかし、これらをうまく組み合わせ、ある程度ストライクゾーン周辺に球を集められれば、プロでも苦戦するだろう。

【アメリアでさらにナックルボールに磨き】

 実際、彼は昭和学院高校3年の夏、千葉大会で強豪・拓大紅陵打線を相手に、5回まで無失点の好投を見せている。体育会的な上下関係が苦手で、日本のスカウトがまずスピードガンを見る現状にも違和感を覚え、プロへの可能性を求めてアメリカへ渡った。そして、ナックルボールにさらに磨きをかけて戻ってきた。

「あとはストレートをしっかり投げることだね」と、顔を出したベイスターズのブルペンキャッチャーが言った。たしかに、時折混ぜるストレートはほかの参加者のそれに比べると見劣りするし、足を上げた時点で、ストレートかナックルかが素人目にもわかってしまう。

「でも、ドバイじゃ通用するんじゃない」と言い残してブルペンキャッチャーは去っていった。その言葉は、プロの目から見て、彼がドバイ行きの切符を手にする可能性があることを示していた。

 しかし、このトライアウトのルールは、ストラックアウトの的を倒した得点と球速をポイント化して競う仕組みになっている。たとえ彼が魔球で的を倒しても、球速の点で大きなポイントにはならない。これにはプロデューサーの高橋も頭を悩ませていたが、果たしてどのような決断を下すのだろうか。

 ベースボール・ユナイテッドは、日米のプロ野球シーズンが終了した11月中旬から、約1カ月にわたって開催される予定だ。メジャー経験者も多数参加するという。細腕ナックルボーラーの岩瀬は、砂漠の摩天楼に囲まれたマウンドに、はたしてその姿を現すのだろうか。

「アメリカでは、元メジャーリーガーのセミナーにも参加して、いろいろ教わりました。ええっと、誰でしたっけ......?」

 メジャー通算216勝を挙げた伝説のナックルボーラー、チャーリー・ハフの名は、20歳の若者にとってはもはや歴史上の人物なのだろう。思えば、ナックルボーラーも球界の遺物と化しつつある。スピードガン全盛の今だからこそ、それだけではない野球の魅力を、メジャーリーガー相手に見せてほしいものだ。

著者プロフィール

  • 阿佐 智

    阿佐 智 (あさ・さとし)

    これまで190カ国を訪ね歩き、22カ国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆。国内野球についても、プロから独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌、ウェブサイトに寄稿している。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。

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