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ドジャース2連覇、MLB史に残る激闘の分水嶺 "内容"ではブルージェイズ打線が上だったが......

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

3勝を挙げワールドシリーズMVPに輝いた山本由伸 photo by Getty Images3勝を挙げワールドシリーズMVPに輝いた山本由伸 photo by Getty Images

前編:2025年ワールドシリーズ「ドジャースvsブルージェイズ」の残照

MLB史に残る激闘となったロサンゼルス・ドジャースとトロント・ブルージェイズのワールドシリーズ。その余韻はいまだ冷めることはない。あらためて振り返ると、さまざまな分水嶺があった。
前編では日本のファンにもお馴染み、縁の下の力持ち(アナリスト)としてブルージェイズを支えた加藤豪将が果たした役割と、両チームの勝敗を分けたもの、後編では比類なき活躍を見せた大谷翔平と山本由伸について、あらためて掘り下げてみたい。

【ブルージェイズを支えた加藤豪将の役割】

 日本ハムで現役を終え、今季からトロント・ブルージェイズのフロント入りした加藤豪将(ごうすけ)が、ロサンゼルスのドジャー・スタジアムに姿を見せたのは8月8日のことだった。その日から始まった3連戦は、今にして思えばワールドシリーズの前哨戦だった。

 加藤の役職はアナリスト。野手に関するデータを分析し、作戦立案をサポートするのが主な仕事だ。チームに帯同してフルシーズンを過ごしている。前年、ブルージェイズはア・リーグ東地区の最下位に沈んでいた。しかし今季は一転して首位を走った。加藤は「昨年はトレードデッドラインで7人の選手を放出しましたが、今年は3選手を補強しました。チーム全体が満足しています」と語る。その躍進を支えたのは、"つなぐ野球"だった。

 MLBでは「フライボール革命」以降、多少三振が増えても引っ張ってフライを打つ打撃が主流となっている。だがブルージェイズは真逆のアプローチを取った。2020~21年にドジャース傘下のマイナーチームで打撃コーチを務めたデビッド・ポプキンス新打撃コーチは「ゴロも悪くない」という哲学の持ち主だ。ストライクゾーンを見極め、空振りせずにボールを強く打ち返す。たとえ地面に打っても、打球速度があればヒットになる。打球の強さを生むため、毎日、選手ごとのバットスピードを一覧にして共有。数値が落ちた選手にはすぐにウェイトルームでの調整や軽めの練習を指示して、体力回復を優先させている。

 加藤も"つなぐ野球"の浸透に一役買っている。春のキャンプでは、チームがバント強化に取り組むなかで、選手をグループ分けして早朝に賞金1000ドル(約15万円)を懸けたバント競争を実施。その際、クラブハウスに貼り出された「お金をバラまくおじさん」風のジョン・シュナイダー監督の加工写真を作ったのも加藤だった。

 練習運営にも関わり、バントは公式戦でも勝利を導く有効な武器となっている。2025年シーズンのブルージェイズは、本塁打数こそ30球団中11位タイだったが、チーム打率は.265でリーグ1位、得点数4位、三振数は2番目に少なかった。加藤は「バントを増やしたいわけではありません。どうすればチームを助けられるかを常に考えています」と話す。

 ホームラン偏重ではない、実戦的で強力な打線を支える縁の下の力持ち――それが加藤の役割だった。

ブルージェイズの「つなぐ野球」を支えた加藤豪将 photo by Kyodo Newsブルージェイズの「つなぐ野球」を支えた加藤豪将 photo by Kyodo News

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著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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