ドジャース2連覇、MLB史に残る激闘の分水嶺 "内容"ではブルージェイズ打線が上だったが...... (2ページ目)
【野球の面白さを世界中に再確認させてくれたシリーズ】
さて、2025年のワールドシリーズ。7試合の内容ではブルージェイズが勝っていた。数字がそれを物語っている。総得点は34対26で8点差。チームOPS(出塁率+長打率)は.745で、ドジャースの.658を大きく上回った。OPS上位8人のうち6人がブルージェイズの選手だった。1位は1.278の大谷翔平だが、2位以下はアディソン・バーガー、ウラジーミル・ゲレロJR.、アレハンドロ・カーク、ボー・ビシェット。6位にドジャースのウィル・スミスが入ったものの、7位、8位はアーニー・クレメンテとジョージ・スプリンガーだった。ドジャースは本塁打数では上回ったが、三振数も多く、チーム打率は.203とブルージェイズの.269を大きく下回った。
ドジャースはリーグ屈指の「空振りを奪う投手陣」を誇り、特に先発のブレーク・スネルはワールドシリーズまでのポストシーズン3試合で空振り率50%という圧倒的な数字を記録していた。
だが、ブルージェイズ打線はそのスネルを見事に攻略した。スネルはワールドシリーズで3試合に登板し、13イニングを投げて15安打8四球、10失点、防御率6.92と苦しんだ。大谷も2試合に先発し、8回1/3を投げて11安打3四球、7失点で防御率7.56。ブルージェイズ打線の粘りに屈した。
近年のMLBでは、「ホームランを打てないチームはポストシーズンを勝ち抜けない」と言われている。その定説は、今回もある意味で証明されたのかもしれない。第7戦では、ドジャースは9回にミゲル・ロハス、延長11回にウィル・スミスのソロホームランが飛び出し、打率で66ポイントも下回っていたドジャースが逆転優勝を果たしたからだ。
しかし誰の目にも明らかだったのは、このシリーズが「"打球の多い"ワールドシリーズ」だったということだ。走攻守のすべてで、わずか数センチを争うプレーが次々に生まれ、それが試合の緊張感を極限まで高めた。ホームランか三振か、という試合展開が主流となった現代の野球にあって、このシリーズはあらためて野球の面白さを世界中に再確認させてくれた。
第7戦、9回裏1死満塁。マウンドには山本由伸。打球は、二塁ゴロだった。もし三塁走者アイザイア・カイナー=ファレファが、もう少し大きくリードを取っていれば――。あるいはスミス捕手がホームベースを踏み損ねていれば――。決勝点が入り、ブルージェイズが1993年以来の世界一に輝いていた。
続く打者、クレメンテの左中間への大飛球も危うかった。キケ・ヘルナンデスとアンディ・パヘスが、ほんの少しでも違う角度で打球に入っていれば、捕れなかった可能性がある。
こうした「紙一重のプレー」がいくつもあり、今回のワールドシリーズの勝敗を決定づけた。ホームランか三振か、という単調な展開が支配する時代にあって、このシリーズはまるで、野球が本来持っていた呼吸や間、偶然と必然の美しさを取り戻すかのようだった。打球の音、走者のスパイクが土を蹴る音、歓声とため息----。野球というスポーツがいまだに"生きている"ことを、私たちに思い出させたのである。
つづく
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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