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無名の浪人投手・岩瀬禮恩 ナックルボールを武器に砂漠の摩天楼ドバイで夢をかける異端の挑戦 (2ページ目)

  • 阿佐智●文 text by Asa Satoshi

【1次トライアウトには約300人が参加】

「プランD」と名づけられたこの第1次トライアウトが7月末に実施され、総勢約300人の選手が集まった。しかし野球シーズン中にトライアウトに参加するということは、裏を返せば、確固たる所属チームがないことを意味している。

 野球界の「素浪人」たちが挑んだこのプランDの第1次トライアウトでは、挑戦者たちがふるいにかけられ、横須賀市にある横浜DeNAベイスターズの練習施設"DOCK"で行なわれた投手対象の第2次トライアウトには41人が進んだ。

 プロ野球はもちろん、学生野球や独立リーグにも所属していない「素浪人」のピッチングなど、たいしたことはないだろうと思われるかもしれない。しかし、さすが野球大国・日本。まだまだ埋もれた素材はゴロゴロいた。実際、社会人野球のクラブ選手権で主力投手として活躍した経歴を持つ選手もいた。

 トライアウトは番組を盛り上げる必要性から、ストライクゾーンの的を狙って落とす、いわゆる「ストラックアウト」の方式で行なわれた。なかには、140キロ台後半の速球で次々と的を撃ち落とす投手もいたが、さすがにマウンドからストライクゾーンを狙うとなると、多くの選手はブルペンとは勝手が違うのか、球が浮いたりスピードが落ちたりしていた。

 めぼしい投手が出揃ったところで退出しようと高橋に挨拶に行くと、「この投手だけは見ていってくださいよ」と、ブルペンで投球練習をしようとしていた細身の投手を紹介された。直前に声をかけて話を聞いた選手だった。

 エキゾチックな顔立ちからどんなバックグラウンドがあるのか、また草野球場にいそうな小柄な体格から「記念受験組」の話でも聞いてみようか......くらいの軽い気持ちだった。

 彼の名は、岩瀬禮恩(れおん)。野球の世界ではほとんど聞かないジョージア出身の父を持つという。

「ジョージアって言っても、アメリカじゃなくて、ロシアの近くにある国のほうです」

 常にそう説明しているのだろう。かつてのソ連邦の一部で、今も一部の領土をロシアに占領されている、かつて「グルジア」と呼ばれていたカフカスの小国だ。

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