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ヒロド歩美が見てきた「甲子園の涙と笑顔」の舞台裏 勝者も敗者も控え部員も取材するわけ

  • 堤 美佳子●構成 text by Tsutsumi Mikako
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

ヒロド歩美さん インタビュー 後編(全2回)

 多くの人を惹きつける高校野球。その最前線で取材を続けるフリーアナウンサーのヒロド歩美さんは、プレーの裏側にある「物語」を伝えることに情熱を注いできた。なぜ勝者だけでなく、敗れたチームの宿舎にまで足を運ぶのか。なぜグラウンドに立つ選手だけでなく、アルプスの応援団にもカメラを向けるのか。そこには、彼女が10年以上の取材を通じて見つめてきた、球児たちの笑顔と涙があった。

高校野球取材の裏側について語ったヒロド歩美さん高校野球取材の裏側について語ったヒロド歩美さんこの記事に関連する写真を見る

【敗者の宿舎で見た"真実"】

ヒロド歩美 私にとって、高校野球は「人生の教科書」です。野球の技術だけではなく、人間的な部分で学ぶことが本当にたくさんあります。だからこそ、試合の結果だけでなく、そこに至るまでの過程や、選手一人ひとりの思いを丁寧に伝えたいと、いつも思っています。

 私が2018年頃からとくに力を入れているのが、試合に敗れたチームの宿舎取材です。甲子園で負けた直後、選手たちは悔し涙を流しています。でも、その日に宿舎を訪ねると、みんな驚くほど笑顔なんです。「甲子園は最高でした」と。その姿を見ると、視聴者の方もきっと「涙のままで終わってほしくない」と思っているんじゃないかなと感じます。敗れてしまったけれど、最後に笑顔で故郷に帰っていく。そこまできちんと伝えることが、私たちの役割だと思っています。

 忘れられない試合があります。2016年夏の八戸学院光星(青森)と東邦(愛知)の試合。一時は7点差がついていたものの、東邦が九回裏に猛攻を見せ4点差をひっくり返し劇的な逆転勝利を収めました。九回裏の甲子園は球場の大半が東邦を応援する異様な雰囲気で、内野席の観客までタオルを回し始めている。そのなかで投げていた八戸学院光星の桜井一樹投手は、怯えているような、怖がっているような表情に見えました。

 でも、試合後に彼が絞り出した言葉は「楽しかった」だったんです。あの状況で、それを言える高校生の強さ。そう言わせる甲子園という場所の力。本当に衝撃的でしたし、甲子園のすごさをあらためて感じた瞬間でした。

 笑顔もあれば、涙もあります。ずっと心に残っているのは、2017年の横浜(神奈川)、増田珠選手(ヤクルト)の姿です。彼のトレードマークは、とびっきりの笑顔。どんな時も笑顔で取材に応じてくれました。秀岳館(熊本)に敗れて甲子園を去る時も、囲み取材で涙を見せず、最後まで笑顔で質問に答えきったんです。そして、取材が終わり「以上になります」という声がかかって、報道陣に深々とお辞儀をした、その瞬間に彼の目から涙が溢れました。

 私は彼の正面ではなく、斜め横の位置にいたので、その瞬間がはっきりと見えました。もう、今思い出してもぐっとくるんですけど......。最後まで笑顔という自分のスタイルを貫こうと、ギリギリまで我慢していたんだなと。彼の強さと人間らしさを感じて、本当に胸が締めつけられました。

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著者プロフィール

  • 堤 美佳子

    堤 美佳子 (つつみ・みかこ)

    ライター・編集者・記者。1993年、愛媛県生まれ。横浜国立大学卒業後、新聞社、出版社を経てフリーランスとして独立。ビジネス誌を中心にインタビュー記事などを担当。学生時代は埼玉西武ライオンズ一筋で、現在はラグビー観戦にハマりつつある。

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