【選抜高校野球】東海大札幌・遠藤監督が受け継ぐ名将のDNA 「オール・アウト・アタック」に込めた思い (3ページ目)
【9回二死からの大逆転劇】
二死一塁から3番・太田勝心(まさむね)が四球で出塁すると、勝心の双子の弟である4番・太田勝馬(しょうま)が打席に入った。アウトになった瞬間に試合が終わる瀬戸際でも、勝馬は冷静だった。
「最初は低めの変化球を振ってしまっていたんですけど、ゾーンを上げてしっかり振り抜こうと思っていました」
2ストライクと追い込まれてから、低めのスライダーを見極める。最後は6球目の126キロのスライダーをとらえ、三遊間を抜いた。二塁から山口が生還し、東海大札幌は同点に追いついた。
さらに続く5番・鈴木も三遊間を抜き、7対6と逆転に成功する。起死回生の同点打を放った勝馬は言う。
「試合が始まる前は緊張していたんですけど、試合が始まったら『いつもどおりだな』と感じながらプレーできました」
東海大札幌は試合終盤の戦いにこだわって、練習している。それは「いくら能力が高くても、ゲーム終盤の力がなければ勝てない」という遠藤監督の経験則に基づいている。実戦形式のシートバッティングでは、「終盤3イニング」「最終回を複数セット」など状況を設定して行なってきたという。
ただし、公式戦には「負けたら終わり」という特有の緊張感がある。それを練習で再現できるものなのか。そんな疑問をぶつけると、遠藤監督はこう答えた。
「選手には常々、本気で練習をやるように言っています。選手たちもそれを理解して、いい声を出して守り、攻めています。そこを徹底できているからこそ、終盤に強いチームになってきていると感じます」
9回裏の守備は、一度は降板して左翼に回っていた矢吹が再登板。最後は併殺で締めくくった。
試合が終わった直後、遠藤監督は再び甲子園のスタンドを一周見渡したという。
「門馬さんが言いたかったのは、こういうことだったのかな......」
遠藤監督の言う「こういうこと」とは、何を指すのか。そう尋ねると、遠藤監督は遠くを見つめながら言葉を絞り出した。
「うーん、まだ言葉ではうまく表現できないんですけど。やっぱり広いなとか、でもグラウンドって変わらないのかなとか、お客さんが入って野球をすると違うなとか......。まだ、わかってないんですけど」
そして、遠藤監督は意を決したように続けた。
「この東海のユニホームを着て、何回も甲子園に来たら表現できるようになるのかなと。原貢先生の言葉からスタートしているので、自分もつないでいきたいと考えています」
東海大札幌の次戦は3月25日、浦和実(埼玉)との2回戦が予定されている。
遠藤監督は甲子園のベンチからどんな景色を見るのだろうか。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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