無名のエースが夏に覚醒し甲子園、そして中日から6位指名 指揮官が振り返る聖カタリナ・有馬恵叶の奇跡 (3ページ目)
「たとえばランナー三塁の場面で、それまではスクイズやセーフティースクイズをしていたんですが、バッタースイングする瞬間にランナーがホームに突っ込む"スイングゴー"も試していきました。空振りでランナーがアウトになったこともありましたが、失敗をしながら新しいやり方を身につけていきました。
また強い打球を打つ意識が芽生えたことで、野手の間を抜けるヒットが増えました。その打ち方が、新基準のバットに最も適していると思っています。ボールを引きつけ、スピンをかけた打球を打たないと遠くまで飛んでいきませんから」
【甲子園では投手戦の末に惜敗】
8月10日、夏の甲子園初戦で岡山学芸館と対戦した。
「私が松山商業2年の時にチームは甲子園に出ましたが、アルプススタンドにいました。初めて指揮を執るにあたって、恩師である澤田勝彦さん(1996年夏の甲子園優勝監督)に連絡して、ベンチのどこに立つべきかを聞きました。すると『真ん中や!』と言われて、そこから見た甲子園の景色は本当にすばらしくて、聖地と言われる理由がわかりました。また来たくなる場所ですね。試合の日は満員のお客さんが入っていて、選手たちには『こんなところで野球ができることは本当に幸せやから、楽しんでやろう』と言いました」
岡山学芸館戦は息詰まる投手戦となったが、接戦の末に敗れた。
「有馬は7月から8月の間の1カ月でほんとに成長し、完全に信用されるエースになっていました。打線が相手投手を打ち崩せずに0対1で敗れましたが、ほんとにすばらしいピッチングを見せてくれました」
有馬は7回2/3を投げて被安打4、失点1(自責点0)の好投を披露し、「将来が楽しみな投手」「伸びしろはかなりありそう」とプロ野球のスカウトから高い評価を受けた。
甲子園初勝利はつかめなかったが、たしかな収穫を手にすることができた。
「愛媛大会では送りバントやセーフティースクイズを駆使して勝ってきたんです。ほぼ成功していたのに、甲子園ではことごとく失敗してしまいました。甲子園に出てくるピッチャーはストライクゾーンの際どいところに投げ込んでくるので、簡単にバントをさせてもらえない。迷ったまま打席に立つと、うまくいきませんね。『これが全国の戦いなんだ』と。普段の練習から不安のある選手は、失敗する可能性が高いと痛感しました。練習でその不安をなくしていかないといけません」
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