無名のエースが夏に覚醒し甲子園、そして中日から6位指名 指揮官が振り返る聖カタリナ・有馬恵叶の奇跡 (2ページ目)
その後も順調に勝ち上がり、初めて夏の甲子園出場を手繰り寄せた。
「2回戦以降は、投げれば投げるほどよくなっていきました。決勝の西条戦で最後のバッターを打ちとった瞬間に、エースと野手、エースと監督とが完璧な信頼関係で結ばれましたね。エースとして信用のなかった有馬が変わった瞬間でした。それまで積み上げてきたことが最後の1カ月で形になったんだと思います。彼の成長がチームを甲子園に導いてくれました」
【不満があったら言うてくれ】
もちろん、エースの力だけでは甲子園の出場権はつかめない。監督と野手との間にはハードなコミュニケーションがあった。
「春季大会で初戦負けを喫したあと、チーム内にたまったものがあると感じたので、『何を言ってもいいから話し合おうや』と言いました。『監督の采配、選手の起用法に不満があったら言うてくれ』と。とにかく、選手たちの言いたいことを聞く会議をしました。いろいろな意見が出て、ノートが真っ黒になりました(笑)。翌日にも会議をやり、春の大会で学んだこと、これからやるべきことについてみんなで話し合いました」
監督と選手の間には、野球に対する考え方の違いがあった。
「選手たちは『3点取られたら、5点取り返せ』という野球を教わってきたと。以前であればそれでもOKなんですが、低反発の新基準バットが採用されたことで、その考え方は通用しなくなる。『打て! 打て!』だけでは勝てない。『それならどうしようか?』と、みんなで考えました」
勝利のために、甲子園に行くためにチームがひとつになりつつあった。
「先輩たちの姿を見ていた今の3年生たちは、最後の夏に向けてどうにかしてまとまろうと考えてくれました。キャプテンの河野嵐を中心にチームのことを第一に考え、次のバッターにつなげる進塁打やバントなどを自分で考えるようになって、チームが変わっていきました。私自身は彼らのレベル、意見に寄り添う形で進めていきました」
新基準のバットになったことで、得点力は下がった。少ないチャンスをモノにする方法について、チーム全員で考え抜いた。
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