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巨人・松井颯の盟友、元明星大の159キロ右腕・谷井一郎はなぜ野球界から姿を消したのか (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 プロで奮闘する松井に対して、「自分の分まで頑張ってほしい」と思いを託しているところはあるのだろうか。そう尋ねると、谷井は「そう思うこともありますけど、口にはしないようにしています」と答えた。

「自分自身、思いを押しつけられるのがイヤだったので。自分がやりたくて野球をやっていただけで、そこまで親しくなかった人から『ずっと応援していたよ』と言われても『え?』と思ってしまって。自分の4年間を見てもいないのに、練習が終わったあとにジムでトレーニングをしていたのも見てないじゃんって。だから颯には背負い込まないでほしいし、自分自身の人生だけを考えてほしいんです。あいつは図太そうに見えて、意外と繊細で人のことを考えてしまうヤツなので。僕はこれからも、気軽に話せる友だちでいたいんですよ」

 内なる思いを伏せ、松井と顔を合わせれば「早く稼いで、俺を運転手にしてくれよ」と軽口を叩く。それが谷井なりのエールなのだ。

 谷井もまた、社会人2年目にして人生の大きな転機を迎えている。交際していた女性と4月に入籍し、生活をともにしている。ますます仕事に没頭する理由ができた。

 そして、谷井にはもうひとつ希望がある。現在、明星大の3年生としてプレーする弟、翼のことだ。

「この前にリーグ戦で初先発して、いいピッチングができたんです。最速148キロくらいまで上がってきているので、あとひと踏ん張り。そこを超えると、変わってくるよと伝えています。弟は自分と違ってコントロールがいいタイプなので、なおさら頑張ってほしいですよね」

 野球をやめること。夢をあきらめること。そこにあるのは、絶望だけとは限らない。谷井一郎は新たな希望を胸に、今日を懸命に生きている。

著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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