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巨人・松井颯の盟友、元明星大の159キロ右腕・谷井一郎はなぜ野球界から姿を消したのか (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 ふたりともプロ志望届を提出したが、ドラフト会議ではくっきりと明暗が分かれた。松井が巨人から育成ドラフト1位指名を受けたのに対し、谷井は指名漏れ。谷井には爆発的なボールがある反面、制球力に課題があった。そんな「ロマン枠」の獲得に名乗りを挙げる球団はなかった。

 じつはドラフト会議前から、谷井は「指名がなければ野球をやめます」と口にしていた。無責任な第三者としては、「もったいない」という思いもあった。だが、谷井が野球をやめる理由を聞いて、二の句を告げなくなった。

「ウチは母子家庭で、もともと経済的な事情から高校で野球をやめることも考えていたくらいなので。これから奨学金の返済もありますし、ドラフトで指名がなければ就職して働きます」

 谷井の引退をもっとも惜しんだのは、松井だった。松井は「ここまでやってきたのだから、あと少しだけでも続けたら」と谷井に提案している。それでも、谷井の引退の意志は揺らがなかった。

【現在は入社2年目の営業マン】

 あのドラフト会議から1年半が過ぎた。松井は巨人に入団後、すぐに支配下登録を勝ち取り、昨季にはプロ初先発で初勝利を挙げている。今季はリリーフとして開幕一軍入りを果たすなど、期待の若手として存在感を示している。

 松井が大歓声を浴びるなか、筆者は水面下で谷井にインタビュー取材を何度か打診していた。だが、谷井から色よい返事は返ってこなかった。ユニホームを脱いでから日が浅く、野球に対して複雑な思いがあったに違いない。無神経な申し出をしたことを恥じつつも、谷井がどんな思いを抱いているのかどうしても知りたかった。

 今年2月に春季キャンプ中に松井のインタビューをした際、そんな思いを告げると、松井は「一郎に伝えてみますね」と言ってくれた。しばらくすると、谷井から「取材をお受けします」という連絡が届いた。

 取材当日、開口一番に「ご無沙汰しています」と挨拶した谷井の抑揚のない口調から、感情を読み取るのは難しかった。

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