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巨人・松井颯の盟友、元明星大の159キロ右腕・谷井一郎はなぜ野球界から姿を消したのか (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

自主トレ後に撮影した谷井一郎さん(写真左)と松井颯 写真/本人提供自主トレ後に撮影した谷井一郎さん(写真左)と松井颯 写真/本人提供この記事に関連する写真を見る

【1年ぶりのピッチングで150キロ】

 ドラフト会議が終わったあとに就職活動を始め、現在の仕事に就いた。入社当初は、「仕事の流れがつかめず、何をしていいのかわからない」と戸惑った。だが、幸運にも恵まれた。谷井の配属先には優秀な先輩社員が多かったのだ。

「先輩に教わりながらなんとか数字を出せるようになってきました。大変なことも多いですけど、そのぶん学べることも多いので。知識が増えていくのは楽しいですね。営業所の所長がとくに仕事のできる方で、自分も早くこういう人になりたいです」

 取引先から「ピッチャーだったんだって?」と声をかけられることもある。最高球速を聞かれ、「159キロです」と答えると、だいたい信じてもらえないという。

「最初はふざけていると思われて、『ウソでしょ?』と信じてもらえなくて。動画を見せると、やっと信じてもらえるんです」

 親友の松井がプロで奮闘していることは、つぶさにチェックしていた。プロ初勝利を挙げた際には、すぐに「おめでとう」と連絡している。

 野球への未練はないのか。そう尋ねると、谷井は「自分のなかでは整理ができています」と言った。だが、谷井は続けてこんなエピソードを教えてくれた。

「シーズンオフの颯の自主トレに、知り合いのトレーナーさんもいたので顔を出したことがあったんです。その時、颯から『ボール投げていいよ』と言われて、キャッチャーに投げてみたんです」

 1年間、ボールをまったく握っていなかった。かつての感覚をなぞるように左足を上げ、右腕を振り下ろす。すると、「150キロ」の球速が表示された。

「あぁ〜......」

 谷井はそんなうめき声をあげたという。その時の感情は、とてもひと言では言い表わせなかった。

「心の整理はついていたのに、いろいろと複雑な感情が湧いてきましたね。1年間ボールを投げていなかったのに、体は覚えていたのかなって。やっぱり楽しいな、という思いもありましたよね」

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