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巨人・松井颯の盟友、元明星大の159キロ右腕・谷井一郎はなぜ野球界から姿を消したのか (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 谷井は現在、ハウスメーカー・一建設(はじめけんせつ)の営業として働いている。大学卒業後、新卒で入社して今年で2年目を迎えるという。

 あらためて1年半前のドラフト会議当日を振り返ってもらった。

「どこかしら獲ってもらえるのかなぁ......と考えていましたね」

 4球団から調査書が届いており、「育成ドラフト指名でも入団する」という意思表示もしていた。大学4年時に状態を落としていたこともあり、「プロに行けたとしても育成かな」と冷静に自己分析していた。

 自分の指名がないままドラフト会議が閉会した時、どんな思いが去来したのか。そう尋ねると、谷井はやはり感情の読み取りにくい低いトーンでこう答えた。

「悔しかったのもありますし、今までやってきたことが実らなかったんだな、結果として残せなかったんだな......と思いました」

 あらためて野球をやめた理由を聞いてみた。すると、谷井は「経済的な事情もあったんですけど」と前置きをして、こう続けた。

「野球を言い訳に自立しない人間にはなりたくなかったんです」

 谷井は言葉を選ぶように「情熱を持って野球を続けている人はすごいんですけど......」と言いながら、説明を続けた。

「自分の場合は性格的にどこかで区切りをつけないと、30歳くらいになってもバイトをしながら野球を続けて......という生活になりそうだなと思ったんです。みんな『もったいない』と言ってくださるんですけど、野球を続けるのもギャンブルなところがありますよね。大学を卒業したあとも、野球に賭けるだけの気力もなくなっていました。やめるならここが一番いいタイミングじゃないか、と思ったんです」

 野球選手として器用なタイプではないことは、誰よりも自覚していた。全球全力で投げ込むスタイルも、「制球重視で出力を落とすと球威がガクッと落ちるから」という事情があった。短期間で技術を向上させ、NPBに行くだけの自信がなかった。

「時間がかかるタイプだと思うので、30歳手前でやっと安定した......となるより、周りが就職するなかで取り残されるのがイヤだったんです」

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