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「野球人口が減ってもレベルは絶対落ちない」甲子園完全試合の松本稔(現・桐生監督)が選手に「適性の限界」を伝える理由 (3ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【体を理解すれば声かけが変わる】

 松本は、選手の動きを見ながら自分の目で筋肉の質を判断することができる。前橋で指導していた時、新入部員を迎えるにあたり「君は野球では限界がある。他のスポーツを選ぶこともありだよ」と、正直に伝えたこともあった。言いにくいことであっても、それが今後の人生のためと考えるゆえの助言だ。それでも野球をやりたいといえば、むろんウエルカム。成長の幅を少しずつ広げていけるように、全力でサポートしていく。

「野球というスポーツの特性を考えた時、夏場の追い込みなどで長距離を走らせるといった激しいトレーニングを行なう指導者もいますが、自分なら短い距離を30回くらいダッシュで走らせます。

 とくに投手は一瞬のうちに力をパッと出す、それを平均120回続けるので、出力の仕方こそ実戦的な練習になる。やみくもに走らせても逆に瞬発力を出すことへの邪魔になる可能性があって、同じやるなら選手に本当にプラスになるように考えていくべきだと思います。もちろん、自分もまだまだ勉強が必要ですけどね」

 松本は選手に対し、ほとんど怒ることがない。そこにエネルギーを注ぎたくない、怒ったところで長いスパンで見れば選手にとってあまりプラスにならないと思うからだが、「そもそも目の前の子が長距離型の筋肉(遅筋)とわかっていたら、うまく打てないからって怒鳴っても問題解決しないでしょう」と語る。知識があれば、言葉のかけ方も違ってくる。

 これは、選手の親にも言えることだろう。

「高校入学の時期になると、野球選手としての力の90%はすでに決まっています。親の遺伝子で約60%、今までの運動経験が約30%。つまり残りのおよそ10%をどうやって伸ばせるかになるんですが、もし両親が瞬発的な筋肉(速筋)を持っていなければ、親は過度な期待を子どもにしないほうがいいんです。子どもの体質を理解しておくことは子どもに余分なストレスをかけないことにつながり、よく頑張っているなと、違う励まし方ができますよね」

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