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文星芸大付・黒﨑翔太が明かす「フライング・ガッツポーズ」の舞台裏 座右の銘は「早まるな」になった (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 黒﨑に「ちょっと早まりましたか?」と聞くと、意外な反応が返ってきた。

「いえ、あそこはギャンブルスタートだったので、キャッチャーが投げる直前にスタートしました。アウトにはなりましたけど、『しょうがない』と割りきりました」

 たとえミスがあっても、取り返せばいい。

 そんな文星芸大付の前向きな姿勢は、運を味方につける。2点差に迫っていた8回表には、相手の守備のミスにつけ込み4得点を挙げて逆転。それまで攻守にいいところがなく、高根澤監督から「どんな形でもいいから取り返してこい」と発破をかけられた黒﨑は、ライト前へ技ありのタイムリーヒットを放った。

 9対7と辛勝した試合後、黒﨑は捕手目線で苦しい試合を振り返った。

「澁谷があそこまで打ち込まれることはないので、宮崎学園の打線はすごかったです。でも、エースがあそこまで打たれたら自分のせいですね」

 その言葉には、高根澤監督から学んだ「投手への気遣い」が滲んでいた。

 文星芸大付は次戦、ベスト8進出をかけて八戸学院光星と3回戦を戦う。ノースアジア大明桜との初戦で強打ぶりを見せつけた八戸学院光星は、きっと文星芸大付のバッテリーにも鋭い牙をむくはずだ。

 だが、どんなに苦しく逃げ出したくなるような場面であっても、文星芸大付にはたくましさを増した扇の要がいる。黒﨑翔太はきっと「早まるな」の金言を思い出し、冷静さを取り戻せるはずだ。

著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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