近江はエース山田陽翔の「先発回避」のリスクを負えるか。起用法に迷いが見られた指揮官の決断は? (4ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 今大会も6点差がついた鳴門戦、海星戦で計3回投げたが、すべてのイニングで複数走者を出した。

 そんな星野が高松商戦で好投を見せた。7対6とリードした8回表一死一、二塁の場面で、足をつった山田に代わりマウンドに上がると、残りの1回2/3を無失点。9回に二死走者なしから連続四球を与えるなど不安定な面も出たが、登板直後のピンチでは強打者・浅野翔吾をレフトフライに打ちとった。

 リードを守りきり「ホッとした」という星野は、試合後にこう語った。

「山田に負担をかけてきてしまったので、なんとか自分が助けたいという気持ちでした。正直、浅野は抑えられる気はあまりしなかったんですけど、それでも攻める気持ちは忘れなかった。その気持ちがああいう結果になったと思います。苦しい場面は多いですけど、ピンチでも攻める気持ちを貫けている。そこは県大会から成長したかなと思います」

 センバツから孤軍奮闘する山田に、申し訳ない気持ちでいっぱいだったと、星野は言った。足をつった山田が再登板できる状態になくなったことで、初めて"しびれる場面"で星野の思いきりを生み出した。

近江は山田陽翔のチーム

 甲子園は高校生を成長させる場所である。多賀監督は常々こう語っている。

「甲子園の1試合は、練習試合の何十試合の価値がある」

 監督が思っている以上に選手が成長するのが、甲子園の舞台である。準決勝までくれば、監督の仕事は勝たせることではない。選手たちの邪魔をせず、のびのびとやらせることだ。キャプテンの山田を中心に、近江ナインは自分たちで考えてやる域に達している。

 星野の投球を見た高松商の長尾監督はこんな感想を漏らした。

「開き直って、思ったよりいいボールがきていた。山田キャプテンの気持ちを受け止めて投げている。山田キャプテンはいいチームをつくったなと」

 星野の好投を生んだのは、エースでありキャプテンの山田。敵将にはそう映った。そして星野もこんなコメントを残している。

「試合後、山田に『抱きしめたる』と言われました。そして『やっと助けられたな』と。心の底からうれしかったです」

 近江は山田のチームだ。指揮官がリスクを恐れて決断できないのなら、いっそのこと山田に任せればいい。投手の起用も、継投策も、山田を中心に選手たちに決めさせてみてはどうか。準々決勝の戦いぶりを見て、そんなことが頭をよぎった。

 はたして、山田ならどんな投手起用をするのか。なんだか急に興味が湧いてきた。

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