近江はエース山田陽翔の「先発回避」のリスクを負えるか。起用法に迷いが見られた指揮官の決断は? (3ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

「エースの渡辺(和大)は完投できる状態じゃなかった。ひとりで投げるのはきつい。どのピッチャーも不安定なので、(エース)は後ろに残しておかないといけない。まだ安定している大室でいったけど、フォアボールを連発。橋崎は県大会の雪辱と思ったけどダメでした」(長尾監督)

「(対戦相手である聖光学院の)キーマンが3番、5番の左バッターだったので、左投手の桑原が序盤を持ってくれればと思っていたのですが......。エースの直江(新)の疲労ですか? ないといったらあれですけど、先も見据えてほかのピッチャーで前半を回してくれればと。うまくいかなかったですけど、昨日の夜も全員で乗り越えようとミーティングしていたので、予定どおりです」(平井監督)

 誰だって「勝ちたい」「ひとつでも上にいきたい」と思うのが本音だろう。だが日程が詰まる後半戦を見据えて、リスクを承知で投手起用せざるをえない試合は必ず出てくる。もちろん、選手の体の状態を考えるのは、将来のある高校生を預かるうえで当然のことだ。

準々決勝の高松商戦で好リリーフを見せた近江の星野世那準々決勝の高松商戦で好リリーフを見せた近江の星野世那この記事に関連する写真を見る

星野世那のポテンシャル

 では、山田のあとを継いだ近江の背番号10の星野はどうなのか。滋賀大会では10回2/3を投げて8四死球、6失点。たしかに、数字だけを見れば一発勝負のトーナメントでは使いづらい。

 だが、投げているボールを見れば、印象はガラッと変わる。身長180センチのサウスポーで甲子園でも最速138キロをマーク。それに打者のタイミングを外すチェンジアップもある。他校ならもちろん、近江でも山田がいなければ十分エースになれる素材だ。

 いい球を持っているのに、なぜ結果が伴わないのか。それは、圧倒的に経験が不足しているからだ。投手はいくらブルペンで投げてもよくならない。打者相手に、真剣勝負の場で投げてこそ得られるものがある。

 ところが、星野にはその出番が回ってこなかった。しびれるような展開で投げた経験がないのだ。捕手の大橋大翔が「気持ちが弱い部分がある」と言うように、マウンドに上がると不安な表情になり、それが不安定な投球につながってしまう。

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