近江はエース山田陽翔の「先発回避」のリスクを負えるか。起用法に迷いが見られた指揮官の決断は? (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 その結果、決勝の大阪桐蔭戦は最速148キロのストレートが130キロも出せない状態になり、3回途中で降板した。試合後、多賀監督はこう語った。

「将来がある子ですから、無理をさせるわけにはいかない。(マウンドから)降ろせるのは僕しかいない。僕が決断しないとあかんのです。結果的に今日の先発は無理だった。回避すべきやったと思います」

 残念ながら、この夏の近江の戦いを見て、この時の教訓が生かされているようには思えなかった。

エース温存は仕方なし

 準々決勝まで勝ち進むと、多くの監督が決断を迫られる。「ひとつでも上にいく」ことを目標に、今までどおりの投手起用で戦うのか。それとも「優勝する」ことを目標に、リスクを承知で今までとは違う投手を起用するのか。

 この夏、ベスト8入りしたチームのうち、仙台育英、高松商、大阪桐蔭、九州学院の4校が準々決勝で今大会初先発の投手を起用した。仙台育英、大阪桐蔭は140キロ台中盤の球を投げる投手が複数おり、地方大会から積極的に起用してきた。

 一方で、高松商は大室亮満、九州学院は桑原颯汰が先発したが、両左腕の球速は130キロ台前半。2人とも地方大会では1試合しか登板していない(大室8イニング、桑原3イニング)投手だった。彼らを先発させた時点で、ある程度の失点は覚悟していたのではないか。

 結果的に、両投手の先発起用はうまくいかなかった。大室は5回を投げて6安打、7四死球、4失点。桑原は1回途中、5安打、2四死球、5失点で降板した。ところが、両校とも2番手でもエースを出さなかった。

 高松商は地方大会で1回2/3を投げて5四死球、4失点の橋崎力、九州学院は地方大会で登板がなかった西嶋貢希をマウンドに送った。いずれも期待に応えることはできず、傷口を広げることになったが、高松商・長尾健司監督、九州学院・平井誠也監督ともに「勝負した結果だから仕方ない」という表情だった。

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