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星稜・奥川恭伸は観察眼も凄い。
意図した4球で「観客を味方にする」

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 周りが見えている。

 球速や制球力、奪三振数ばかりに注目が集まるが、数字や見た目には表れにくいこの部分こそ、星稜(石川)・奥川恭伸(やすのぶ)の最大の特長だ。

強豪・履正社から17個の三振を奪った星稜のエース・奥川恭伸強豪・履正社から17個の三振を奪った星稜のエース・奥川恭伸 2月のある日。ブルペンで投球していた奥川が、明らかに手を抜いて投げることがあった。そうかと思えば、その数球後、ミットの音が室内練習場に響きわたるほどのストレートを投げ込む。

 その違いを観察していると、あることに気がついた。"ある人"が捕手の裏にいるかいないかで投げるボールが変わるのだ。

"ある人"とは、同じくセンバツ出場を決めていた盛岡大付(岩手)の関口清治監督だ。その日、星稜の練習を訪れていた関口監督は、ほかにも訪れていた他校の監督に混じって奥川の投球をスマートフォンの動画で撮影していた。奥川に確かめると、こんな答えが返ってきた。

「はい、抜いてました。雑誌で見て、盛岡大附の監督さんの顔は知っていたので」

 強打の盛岡大付。センバツで対戦する可能性もある。「手の内は明かしませんよ」というわけだ。誰に見られているかを確認しながら、その人が凝視している場面とそうでない場面で力の入れ具合を変える。こんなことができる高校生はなかなかいない。

 履正社(大阪)との対戦となったセンバツ初戦でも、その"能力"を発揮した。

 初回の先頭打者・桃谷惟吹(いぶき)への投球。1球目から4球連続して力を入れたストレートを投げ込んだ。初球の148キロで球場をざわつかせると、2球目には150キロを出して観客のどよめきを誘った。4球目にはこの日最速で、自己最速でもある151キロを記録。

 もちろん、試合の入りで力を入れたのにはわけがある。今大会前、ほとんどの高校野球雑誌で表紙を飾った奥川。大会ナンバーワン投手と言われ、観客は奥川の投球、スピードボールを楽しみに球場に足を運ぶ。その期待に応えることが、観客の満足度を高め、「来てよかった。もっと見たい。応援したい」という雰囲気をつくっていく。スター選手にしかできない球場の空気を支配するための方法。奥川は、それを狙ってやっていた。

「球場の雰囲気を味方につけることができた。よかったかなと思います」

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