【レジェンドランナーの記憶】1992年バルセロナ五輪、谷口浩美は転倒している瞬間も「むしろ冷静で、脱げたシューズがどこにあるのかを確認していた」 (2ページ目)
【本番で一番気をつけていた「給水」】
ただ、レースは冷静に分析できていた。前日記者会見で「レースでは何に一番気をつけていますか」と問われると、「給水です」と答えた。東京世界陸上の経験から、今回もそこがポイントになると考えていた。
「東京の世界陸上は、夏の暑さで60名中24名が途中棄権したんです。その時、多くの選手が給水をしっかり取らないといけないことを理解したと思います。バルセロナでは160名近くが走ります。暑いのでペースがかなり遅くなるなか、給水所に選手がワッと押し寄せてくる。その中で自分のボトルをつかみ、しっかりと給水しないといけないですし、給水所からアウトする際は素早く、混雑に巻き込まれないようにしないといけない。給水が重要ポイントになると思っていました」
バルセロナ五輪のマラソンの給水所は、現在の世界大会のように国ごとに一定の間隔で設けられているのではなく、日本選手のスペシャルドリンクは中国と韓国と同じテーブルに置かれた。時速約20kmというスピードで走りながら、自分のボトルがどこにあるか見極め、素早く取るのは容易ではない。谷口はゲームセンターにあるクレーンゲームのように上からわしづかみするのがベストだと考え、確実に遂行するための練習も行なっていた。
「五輪ではだいたい2.5kmごとにゼネラル(主催者が用意したドリンク)があって、10kmごとにスペシャルがありました。レース前半はともかく、(余裕のなくなってくる)後半には2.5kmごとにある給水を取らないと、水なしで6分以上走ることになり、脱水状態になってしまいます。特に、スペシャルの給水所ではちょっと遅れても確実に取ることを優先し、どうやって追いかけていくのかというところまで考えていました」
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