「モデルジャンパーの肩書きはもう気にしない」 秦澄美鈴が女子走幅跳で新記録→周囲の見る目も変わって起きた心境の変化 (3ページ目)

  • 荘司結有●取材・文 text by Shoji Yu
  • 村上庄吾●撮影photo by Murakami Shogo

【"モデル"の肩書きはもう気にしない】

 グッと世界に近づいたからこそ、日本記録を出した喜び以上に、もどかしい跳躍が続いたことでの課題も多く感じているのだろう。「日本記録保持者にはなったのですが、池田久美子さんのようにハイアベレージを出しているわけではないので、まだ自分では『認めないぞ』という気持ちを持っています」と秦。本人は控えめにこう語るが、日本記録を出したことで周囲の見る目が変わっているのも事実だ。

 秦は所属するシバタ工業でかつてレイングッズのイメージモデルを務めた経験から、一部のメディアで"モデルジャンパー"というキャッチコピーがつけられた。だが、秦が日本記録を塗り替えてから、その肩書きは徐々に外れているように思う。それは秦が跳躍の第一人者として、世間に認識された一つの証しではないだろうか。

 秦にその印象を告げると「それだったら私としては理想ですね」と言い、こう続けた。

「元々、アスリートとして大した成果を上げていないから容姿を連想させるようなネーミングがつけられていると捉えていたので、実力がついてきて、それが外れていったらベストかなと思っています。別にモデルを続けているわけでもないですし、その肩書きのせいで意地悪なことをSNSで書かれることもあって。当時は余裕がなかったのもあり、嫌だなあって思うこともありました。でも最近はそれを理解してくれる方も増えてきたので『まあ、いっかあ』と(笑)。どういう肩書きをつけられても別に気にする必要はないかなって思っています」

 今季は秦だけでなく、三段跳の森本麻里子(内田建設AC)、棒高跳の諸田実咲(アットホーム)も日本記録を塗り替え、女子跳躍勢の存在感が強まったシーズンだった。オリンピック初出場を目指すパリ大会に向けて、秦はその勢いを追い風にして、さらに前へ、前へと跳んでいくつもりだ。

「跳躍女子が来てるなって感じていますし、後に続いてくれる人が出てくれば、女子の100mハードルのように『誰が勝つのか』という注目のされ方もすると思います。そのためにも、私は今の流れを崩さないように活躍するのが大事なのかなって。パリ五輪については具体的な目標はこれからですが、最初の試技で良い跳躍をすることが一番ハッピーなのでそこは目指していきたいですね」

トップジャンパーとして、さらなる活躍に期待 写真提供:シバタ工業株式会社トップジャンパーとして、さらなる活躍に期待 写真提供:シバタ工業株式会社この記事に関連する写真を見る

前編/バスケ→走高跳→走幅跳で「17年ぶりの日本記録更新」 秦澄美鈴が歩んだ異色の道のり》》

【プロフィール】秦澄美鈴(はた・すみれ)/1996年5月生まれ、大阪府出身。山本高(大阪)→武庫川女子大。小・中学校時代はバスケットボールをプレーし、高校から陸上競技を始める。当初は走高跳で頭角を現したが、大学入学以降、記録が伸び悩むと合わせて取り組んでいた走幅跳で成長。大学卒業後は走幅跳に専念すると、日本トップクラスへ駆け上がり、2019年に日本選手権で初優勝を果たすとその後も自己記録を伸ばしていく。2023年7月のアジア選手権では6m97を跳び、11年ぶりの日本記録更新を果たすと同時に2024年パリ五輪の参加標準記録を突破。世界陸上には2022年オレゴン、2023年ブダペストと2大会連続出を果たしている。

プロフィール

  • 荘司結有

    荘司結有 (しょうじ・ゆう)

    1995年生まれ、宮城県仙台市出身。早稲田大学競走部でマネージャーとして活動。新聞社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やスポーツとジェンダーの取材を中心に、社会課題やライフスタイル関係の媒体でも執筆中。

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