箱根駅伝2位と中央大・藤原監督の秘策がズバリ。3年前からは育成方針を転換「これが令和の指導法」 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by スポニチ/アフロ

 藤原監督の指導が変化し、選手が自発的に動くようになると、強くなるために必要なことが見えてくる。速くなろうと考えると意識も高くなる。そういうマインドになるキッカケになったのが、5年目、吉居大和、中野翔大の入学だった。

「大和の世代が入ってきて、上の世代が『ヤバい奴が入ってきた。これは負けられない』と思ったことや、大和の意識に引きずられて、みんなの意識も上がっていき始めたところが大きな変化のスタートになったと思います。実際、大和の姿を見て『自分も大和みたいな選手になりたい』と入学してくる子が増えました。意識が低い選手がいても、そのままでいることが許されないとわかり、いい意味で意識が高い方向に流されていくようになりましたね」

 吉居大和の姿に憧れたり、ああなりたいと思う下級生たちは、何をやらないといけないのか。先輩の姿を見て学び、時には質問したりして走力を研鑽していった。そういうサイクルが完成し、「強いチームのマインドになりつつある」と藤原監督は感じている。

【優勝するために必要なこと】

 ただ、今回優勝した駒澤大の背中は、まだ遠い。ミスで優勝を逃した青学大との差もあると感じている。優勝した駒澤大との1分42秒差からは何が見えたのだろうか。

「1分42秒差がついてしまったのは、僕らが3位を目指すと言ってスタートしたチームと、3冠を狙うと言ったチームとの1年間の積み重ねの差が出たのかなと思っています。3位狙いで、優勝を狙えるようなマインドを作ってあげられなかった。大和のような選手を5人作ろうとやってきましたが、5人では足りなかった。やっぱり戦える選手を20名用意し、分厚い選手層を作っていかないといけない。その対策を練っていかないといけないので、ホッとしている暇はないですね」 

 吉居大和レベルの選手が必要だと語るのは、単に中央大が勝つためのことだけではない。吉居大和のような高いレベルの選手を10人以上、揃える努力をしていかないと日本長距離界のレベルが上がっていかず、世界で戦える選手が出てこないのではないかという危機感があるからだ。

 一方で箱根を勝つことは、古豪といわれる中央大の使命でもある。今回の1分42秒差は、単純計算するとひとり10秒短縮する努力が必要になる。トップレベルの10秒は高いハードルになるが、いつまでも吉居大和や中野に頼っていては、チームは本物の強さを身につけることはできない。

「これは個人的に思っていたことなんですが、うちは部員が40名程度しかいないんです。そのなかで下の選手がもう上を目指せないと思ってしまうことが一番よくないんです。その子たちにいかにモチベーションを持たせ、高いレベルでやっていくか。下のレベルが上がっていくと自然と上のレベルも上がるんですよ。チーム全体のマインドを『やってやる』というふうにしていかないと駒澤という厚い壁はなかなか破れないと思います」

 吉居大和、中野らが最上級生になった4月からのチームは、より一層期待感が膨らむ。彼らの進級とともに箱根駅伝も12位―6位―2位と順調に階段を上がってきた。

「レース後、4年生はホッとしていましたが、下級生たちは2位でも悔しそうな表情をしていました。まだ、我々は勝ったわけでもないですし、何も手にしていない。100回大会で優勝はずっと言い続けてきていることなので、大和たちは強烈に意識していると思います。後輩たちも先輩についていこうとしていますので、次の1年でどのくらい強くなれるかがカギですね」

 選手に寄り添い、個性を輝かせて個の能力を高めていく藤原流の指導が箱根を制し、王道と言われた全体主義的な箱根強化に果たして風穴を開けられるか。

 中央大・藤原監督と選手たちの壮大な挑戦は、続く──。 

◆箱根駅伝2023特集 レースの振り返り、監督インタビューなど他の記事を読む>>

【筆者プロフィール】佐藤 俊(さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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