小田凱人の鼻を折った宿敵ヒューエットの執念 車いす版「フェデラー/ナダル」のライバル物語 (3ページ目)
【サウスポーの小田がナダル?】
果たして迎えた今大会の決勝戦──ヒューエットは、小田を攻略した。小田の左腕からのサーブを、コースを読みきったかのように次々と打ち返す。ストローク戦でも、小田の動きの逆を突き、ウイナーを決めた。
小田の魅力はなんといっても、左腕から繰り出す強打と、早い展開力。ただ、華やかなプレースタイルは相手に確実に打ち返された時、自らの時間も奪われる諸刃の剣でもある。最終スコアは4-6、4-6だった。
試合後のヒューエットは、自身10個目となるグランドスラム・シングルス優勝を、コーチ陣から「キャリアで最も重要なタイトルだ」と評されたと明かした。その理由はひとえに、小田に勝ったことにあるだろう。
小田というライバルを得られたことを、ヒューエットは「感謝している」と言い、笑みを広げる。
「1年前の自分の試合動画を見た時、笑ってしまったんだ。そこから今まで、自分がどれほど成長していたかという事実に。彼(小田)の登場によって、フィジカル、戦略性、メンタルと、あらゆることが一変した。僕らはすごくいい関係性にあると思う。彼が僕を高めてくれるし、彼も同じことを言うだろうと信じている」
そして彼は、こうも続けた。
「僕らは、車いす版『フェデラー/ナダル』だと思う」......と。
男子テニスを今ほどの高みに引き上げた源泉が、昨年引退したラファエル・ナダル(スペイン)と、2022年末にキャリアに幕を引いたロジャー・フェデラー(スイス)のライバル関係にあるというのは、誰しも異存のないところだろう。
ヒューエットは、車いすテニス界における小田と自身の関係性は、極めてこのふたりに近いと言った。たしかに若い小田がサウスポーであることも含め、両者は相似性を成す。
フェデラーとナダルの対戦は40回を数えたが、小田とヒューエットは19回対戦し、小田が10勝とわずかにリードする。
ほかの選手たちを牽引し、競技そのもののレベルと知名度も大きく引き上げ、小田とヒューエットのライバル物語は一層、熱を帯びて紡がれていく。
著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。
【写真】17歳の園部奏八は今年の全豪ジュニア制覇!日本女子テニス「6人のティーンエイジャー」フォトギャラリー
3 / 3