パラリンピックへの道が「めちゃくちゃキツい」車いすフェンサー・藤田道宣の本音 (3ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu

 また、今年9月には強豪・中国の上海のクラブチームへ行き、個人合宿も経験。そこでは、基礎練習に相当時間を割いていることに驚いたという。世界でメダルを獲るトップ選手も、まっすぐ突くといった基礎動作をずっと続けていたと振り返る。

「それを見て、自分は惰性で突いていたんだなと思いました。日本は選手が少ないので実戦練習が多いけれど、基礎固めがやはり大事なんだと痛感しました」

 それから1カ月間は、この基礎練習を繰り返すようにしていたといい、「まだ先は見えないけれど、この気づきが対策につながればと思っています」と藤田は言う。

 そんななか迎えた杭州アジアパラ競技大会は、浮上のきっかけになるかもしれない。藤田はフルーレで、5人総当たりの予選プールを2勝2敗で突破し、決勝トーナメントに進出。ベスト16となる1回戦では、予選免除のシードの角田成(電通デジタル)との日本人対決を15-11で制し、準々決勝に駒を進めた。

 そこで対戦したのが、中国の個人合宿で一緒に練習した秦本军(軍の異体字/QIN Benjun)だった。秦とは予選プールでも戦い、その時は0-5で藤田が敗れているが、この試合の序盤から1点を争う展開に持ち込んだ。リスクもあるが普段より距離を取り、2回、3回とフェイントを連続で入れてポイントを重ねた。後半はそのアタックで体勢が崩れたところを狙われ連続失点を許し、7-15で力尽きた。

「相手は世界選手権のエペで優勝している強い選手。合宿で一緒にトレーニングをしたのですが、彼の練習量と練習の質が圧倒的で、フェンシングへの向き合い方もしっかりしていた。彼には負けてしまったけれど、自分なりにいろいろ考えてプレーできたし、内容はわりと手ごたえがある」と振り返り、前を向く。

 この経験が、暗闇に射す一筋の光となるだろうか。パリパラリンピックの選考レースは来年の5月末まで続く。「世界ランキングは角田選手が上だし、各国の競技レベルがものすごく向上しています。来年のパリへの道のりが厳しいものであることは間違いないけれど、最後まで諦めずに頑張ろうと思います。次戦の12月のタイでのワールドカップではベスト8を目指します」

 絶望を嘆くより、希望を謳う。車いすフェンサー・藤田道宣の挑戦は続く。

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