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走ることは、生きること。車いす陸上の超人・永尾嘉章「53歳の挑戦」 (2ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • 吉村もと/MAスポーツ●写真 photo by Yoshimura Moto/MA SPORTS

 そんな永尾も、49歳で迎えた前回のロンドン大会では代表から漏れた。悔しさとともに頭をよぎったのは『引退』の2文字。だが、永尾がトラックを去ることはなかった。競技続行を決心させたもの、それは「まだ限界にチャレンジしていない」という、先駆者としてのプライドだった。それからは「一年一年が勝負」と腹を据え、再び厳しい練習をスタートさせた。

 現在は、リオに向けた長いスパンで目標を設定し、練習に集中する。11年から取り組む肩関節の柔軟性と、肩甲骨の可動域を向上させる加圧トレーニングの効果が出始め、14年のアジアパラ競技大会では100mで銀メダルを獲得。

「ぼろ負けだったらやめようと思っていたけどね、つながった。常に崖っぷちなんだよ」と永尾は笑う。

 さらに、努力が形となって表れたのが、スイスで行なわれたふたつの大会だった。昨年6月のダニエルユーツェラメモリアルでは、100mで自身が持つ日本記録を15年ぶりに塗り替える14秒07をマーク。そして、この大会直後にエントリーしたスイスオープンナショナルでは、400mで47秒59の日本記録を11年ぶりに更新した。特筆すべきは100mである。

 これは世界ランキング5位の記録で、リオパラリンピック代表選手の推薦基準のひとつをクリアしており、出場がぐっと近づいたことになる。

 車いすのトラック種目のなかでも永尾のクラスT54は選手層が厚く、世界的にも激戦区とされる。そこにあえて身を置き、そして50歳を超えてなおもタイムを更新し続けることに多くの人が関心を寄せるだろう。だが、当の本人は「それだけのことをやってきたから、驚きはない」と言い切る。

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