江村美咲ら日本フェンシングが2025年もメダルラッシュ 東京五輪金メダリストが語る競技の現状と普及面での課題 (3ページ目)
【選手たちが競技を続ける環境づくりは課題】
――気が早いかもしれませんが、ロサンゼルス五輪でも日本勢のメダルラッシュを期待できるでしょうか?
「あと3年ほどあるので油断は禁物ですが、パリ五輪で初めてメダル(銅メダル)を獲得した女子サーブルが、順位を上げて今年のW杯で金メダルを獲得したことは"追い風"になるでしょう。江村選手ひとりが特別なのではなく、チームで力を合わせて勝利を掴み取れたことは、ほかの選手たちの大きな自信になったと思います。かつては遠い世界のように感じられた、『フェンシングで五輪に出て金メダルを獲得する』という夢が、現実的な目標に変わったことは、競技全体にとってプラスに作用するはずです。
女子サーブル、男女のエペは日本が強豪国としての地位を確立していますが、多くの国が今、世代交代などで新しい選手を起用し始めています。オリンピックのメダル獲得を目指し、3年かけて完成度を高めてくる相手を分析しながら勝ち続けることは容易ではありません。でも、そこで"待ち"の姿勢になるのではなく、常に高みを目指すチャレンジャーでいてほしいです」
――競技のレベルアップのために必要なことは?
「まずは国内の競争力を高めていくこと。現時点では、素晴らしい才能を持った選手であっても、大学を卒業するタイミングで選手を引退し、一般企業に就職するケースが多く見られます。卒業後も世界で活躍できる可能性を秘めた選手が、チャレンジをせずに一線を退いてしまう状況は改善していくべきですし、強いチームを作り続けられるような体制を整えていくことも必要不可欠です。
そして、さらなる強化のために、日本人選手に特化した育成メソッドを体系化していくことも求められるでしょう。海外の指導者を積極的に招聘するなど、日本のフェンシングは20年ほどかけて強豪国に肩を並べられるようになりました。その過程で、勝つために必要なノウハウは蓄積されているとは思うのですが......それらは一部のコーチや選手の感覚的なものであることが多く、国全体の育成のメソッドとしてまとめられているわけではありません。
日本では、フェンシングだけで生計を立てている方は少なく、指導者の枠を取り合っているような状況も見られます。協会などが中心となり、これまでに培ってきた選手育成のメソッドや指導方法をまとめて、全国にいる若手選手の可能性を伸ばしていくための指針を示す必要があると思います。
もし、再びメダルが獲得できない時期が訪れてしまったら、『当時の選手たちが特別に強かった』という幻想しか残らない。そんな未来を避けるため、早急に着手しないといけないと思っています」
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