ボートレーサー内山七海、27歳 高3のときに初めて知った「祖父がボートレーサーだった」で運命が動き出した (3ページ目)

  • キンマサタカ●取材・文 text by Kin Masataka

【平山智加の走りに「体が震えた」】

毎日のようにレースを見ているうち、内山の中に、「なんでだろう」という疑問がどんどん湧いてきた。スタートが揃わないのはなぜ。1位とそれ以下の差が開いていくのはなぜ......。だが、家族はもちろん、友達でもボートレースに詳しい人はいない。レース場に足を運んで、隣にいた見ず知らずのおじさんに「なんであの人が最後に抜いたんですか」と聞いたこともあった。

「そのおじさんが本当に饒舌で、とにかく解説がうまかったことを覚えています(笑)。話を要約すると、『抜いた人のほうが、腕があった』ということでした」

今でも印象に残っているのは、2016年のSG第63回ボートレースダービーだ。

10月25日。薄曇りのボートレース福岡。選考期間の勝率が1位だった平山智加(香川)は、女子史上初、SGドリーム戦のメインレースで1号艇に乗ることが決まっていた。場内にはボートレース界最高峰の戦いを見に、多くの客が訪れていた。その中に内山の姿もあった。

「テレビじゃなくて、実際に平山さんが走るところを見たかったんです」

内山が見つめる先で、秒針が回り始めた。ダッシュ勢のモーターがうなりをあげる。スローから迷わず突っ込んだ平山は、コンマ03のトップスタートを決める。

レース後に「少しでも後手を踏んだら伸びられると思って、思い切ってよかったです」と振り返ったように、平山は誰よりも早いスタートを決めて、「逃げ」で見事に制した。

レース結果は1-3-5。29番人気で、払戻金は6400円。1号艇が圧倒的に有利とされるボートレースにおいて、この高配当はファンの期待をいい意味で裏切ったと言える。

会場にいた内山は、勝敗を見守ったファンの大きな歓声を耳にして、体が震えるのを感じた。名だたる男子レーサーを抑え、1位に輝いた平山の姿は輝いて見えた。内山がボートレーサーという職業を明確に意識し始めた日だった。

(中編:養成所の「劣等生」だった内山に、現役ボートレーサーが喝「そんな奴の舟券を誰が買うんだ」>>)

【プロフィール】
 
◆内山七海(うちやま・ななみ)

1996年12月12日、福岡県北九州市生まれ。B1級。祖父は元ボートレーサーの橋本忠。ボートレーサー養成所の試験に7回目で合格。福岡支部の127期として2020年11月にボートレース若松でデビューし、2021年12月に初勝利を飾った。

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