アルペンスキー大回転日本一から教員→ガールズケイリンで500勝の偉業 奥井迪の31歳での転身に母は「頭がかち割れるほどの衝撃だった」 (3ページ目)

  • 加藤康博●文 text by Kato Yasuhiro
  • 軍記ひろし●撮影 photo by Gunki Hiroshi

【先行で感動を与えたい】

 奥井を語る上で、外せないテーマがその戦い方。戦法は「先行」を選択することが多く、「先行日本一」との評価も受ける。集団の先頭を走り、主導権を握るそのスタイルは自分でペースを管理できる一方、風の抵抗を真正面から受けるために体力、筋力の消耗が激しい。だが競輪学校在籍時から、この勝ち方へ強いこだわりがある。

「見ている人に感動を与えたいと思ったのがきっかけです。先行は一番キツく、脚力が求められますが、気持ちを含め、持っている力をすべて出しきって勝つことで見に来てくれたファンの方に喜んでいただけると思うんです。私もレースを見ていて先行して勝った選手を見た時には感動しますし、自分自身、その勝ち方をした時の喜びは何物にも代えがたいと感じます」

数々の特別レースで結果を残してきた奥井 photo by Takahashi Manabu数々の特別レースで結果を残してきた奥井 photo by Takahashi Manabuこの記事に関連する写真を見る

 一方で年齢を重ねるにつれ、このスタイルで勝つことが難しくなったとも感じている。もっと勝利にこだわるべきではないかと自問自答し、葛藤した時期もあったが、多くのファンから「そのままでいい」という言葉が届き、覚悟を決めた。生涯先行。その美学を奥井は貫きたいと話す。

「教員は人が相手の仕事です。でもガールズケイリンは自分自身が相手の仕事だと思っています。日々、自分を高め、レースに向かって最高の状態をつくり、レースのなかで状況判断をしながら決断し、勝利を目指す。とくに先行という戦い方は気持ちで負けてしまうと力を発揮できないんです。そのメンタルの自信を手にするために、毎日、トレーニングとコンディショニングをしています」

 勝利を重ねても驕ることなく、高みを目指す。彼女の背中は後に続く後輩たちのお手本になっていることだろう。その姿に憧れてガールズケイリンを志した選手や、走り方を参考にする選手は多いという。本人にその意識はないが、人を導くという意味で奥井は今も「先生」としての一面を持っている。

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