アルペンスキー大回転日本一から教員→ガールズケイリンで500勝の偉業 奥井迪の31歳での転身に母は「頭がかち割れるほどの衝撃だった」 (2ページ目)

  • 加藤康博●文 text by Kato Yasuhiro
  • 軍記ひろし●撮影 photo by Gunki Hiroshi

【ボロ負けからのスタート】

 2012年12月に日本競輪学校の試験のひとつ、自転車競技未経験者のための「適性試験」に合格し、翌年に入学。かつての教え子がいてもおかしくない年齢の生徒に囲まれた。アルペンスキーでの活躍や年上としての経験からプライドが顔をのぞかせたり、教育的な視点で同期生を見るようなことはなかったのだろうか。

「それどころではなかったです。なにしろ自分はゼロからのスタートで、できないことばかりでしたから。周りを気にする余裕はなく、ひたすら自分のことで精一杯でした」

 過去のキャリアや年齢は関係なく、頼れるものは自分の実力だけという世界。2014年5月にデビューを果たすも、その初戦は5着で、本人の言葉を借りれば、「ボロボロに負けたレース」となった。

「私はやっていけるのかな」

 プロとなってからも不安は常につきまとったが、悩む間を作らないためにも、練習に明け暮れる毎日を送る。初勝利を挙げても、自信にはつながらず、いかにしてタイムを伸ばすか、勝利を掴むかを目指して鍛錬を続けた。

メンタルの強さも感じさせる奥井メンタルの強さも感じさせる奥井この記事に関連する写真を見る

「私は目の前の一走一走に気持ちを込め、全力を尽くすことだけを考えていて、先の目標はあまり立てないんです。ただ始めた頃は、練習すればするだけ強くなれましたが、ある時点からしっかり考えて、取り組まないと成長できないと感じるようになりました。頭打ちにならないように、今もとにかく考え尽くして練習に取り組むことを意識しています」

 2年目からは安定して勝利を重ねるようになり、年間女王を決めるガールズグランプリ出場も果たす。今は押しも押されもせぬトップ選手のひとりとなったが、「目の前の一走に全力を尽くす」というスタンスに変わりはない。

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