ガールズケイリン界に飛び込む注目新人3選手 運動部経験ゼロながらも連続A評価のサラブレッドも (3ページ目)
能力評価で唯一2連続A評価を獲得した戸邉香奈実
競輪一族の大器
戸邉香奈実(とべ・かなみ)
1993年10月6日生まれ、茨城県出身
そのルーツから大きな注目を集めているのが、戸邉香奈実だ。父の戸邉英雄、祖父の戸邉弘、大叔父の戸邉純一は元競輪選手で、従兄の山口翼、又従兄の戸邉裕将は現在でも競輪選手として活躍するなど、彼女はまさに競輪一族のなかで育った。
幼少期から競輪は身近な存在だったが、ガールズケイリンのスタートが2012年だったこともあり、多感な中高時代に競輪選手になる夢を持つことはなかった。どちらかというと彼女は競輪や運動とは無縁の道を歩んできた。
「語学に興味があって、高校の時にアメリカに留学をしていました。そこで英語を学んで、今度はロシア政府の奨学金の試験を受けて、国費留学生としてロシアでも勉強をしました」
高校時代にアメリカに留学し、その後、日本に戻って高校を卒業。今度は京都産業大学に入学し、最終的にはロシア国立研究大学高等経済学院を2019年に卒業した。その時彼女は25歳。アメリカ、ロシアで学んだことを生かして、社会人として生活し始めた矢先に、新型コロナウイルスがまん延。生活やビジネスのスタイルが否応なく変化していくなかで、彼女の心にも変化が訪れた。
「1回きりの人生なので、興味があることはなんでも試してきましたが、そんななかで(新型)コロナが流行して思ったんです。競輪一族に生を受けたのに、私の代で競輪選手を途絶えさせるのはもったいないと。だから適性(試験)の受験を決めました」
これには周囲が驚いた。それまで運動部に所属したことがなく、入っていたのは茶道部と筝曲(そうきょく)部。しかも受験を決意したのが、応募の締め切りからわずか1か月前のこと。「父も『受けてみれば』みたいな感じ」で合格するとは思っていなかったようだ。
日本競輪選手養成所の一般試験には2つのタイプの受験があり、彼女が受けたのは、自転車未経験者のための「適正試験」。垂直跳び、長座体前屈、背筋力、固定自転車でのパワー数値などをもとに合否が判定される。彼女はこの試験に見事合格した。第124回生の「適正試験」の合格率が28.6%だったことを考えると、驚異的とさえ言える。
ただ自転車未経験者のため、在所中はかなり苦労した。40レース中、3着以内が8回と満足する結果を手にすることはできなかった。
しかし3度行なわれた記録会での能力評価では全選手のなかで唯一2連続A評価を得ている。スピード能力や持久力などをA~Dで評価するもので、連続A評価は彼女のポテンシャルの高さを表していると言える。ちなみに身体能力も図抜けていて、全23人中、背筋力と垂直跳びではナンバー1。握力でもトップクラスだ。
言うなれば、彼女はダイヤの原石。レースの駆け引きや勘所を身につければ、大きく飛躍する可能性がある。現に卒業記念レースの最中にも飛躍の糸口を見つけたという。
「私は結構力があるので、脚で(ペダルを)思いきり踏んでいたんですけど、『脚のつけ根から踏んで引いたほうがいい』というアドバイスをもらっていて、それを意識したら疲れが全然ないことがわかりました。今回の卒業記念レースでその言葉がピタッときて、びっくりするくらいラクに走れました。これまで養成所で10か月くらい学びましたけど、残り何日かでやっとかという感じでしたね」
競輪一族の血統であり、底知れぬポテンシャルを有する戸邉香奈実。彼女の能力を磨ききった時、一体どんな選手に変貌を遂げているのだろうか。今から楽しみで仕方ない。
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