ロコ・ソラーレの吉田知那美は北京五輪で密かに苦しんでいた。「自分のことを信じられなかった」 (3ページ目)

  • 竹田聡一郎●取材・文 text by Takeda Soichiro
  • photo by JMPA

 サードのラインコールって、絶対に決めないといけない石をコールするわけですから、カーリングでも大切な仕事のひとつなんです。それについては、JDとも何度も話をしてきたんですけど、(韓国戦では)私のイエスの声ひとつで失点を重ねてしまい、自分を疑い始めてしまったんです。

 正直、韓国戦のあとの2、3試合は全然ダメでした。自分のことを信じられなかったですね。私は、人のミスには『大丈夫だよ』って言えるけど、自分のミスにはそう思えない弱さがあると感じています。そこで、『大丈夫』と思える強い選手になりたいんですけど......」

――そんな状態にありながら、明るく振る舞って戦い続けていたと思います。

「JDも、(石崎)琴美ちゃんも、(日本から連絡をくれた)母親も『大丈夫、大丈夫』と言い続けてくれて。自分のことは信じられなくなっていたのですが、自分のことを信じてくれる人がいたから、その人たちを信じることで、間接的に自分を信じて氷に乗ることができました。

 自分ができないんだったら人に頼って、途中からは、わからないことはさっちゃんにも伝えて、ラインコールも手伝ってもらい、少しずつ修正していった感じでした。大会を通して自分を信じることができなかったけど、チームのことは信じることができました」

――ラウンドロビン(総当たりのリーグ戦)の最終戦を終えた時には敗戦を覚悟。しかしその後、セミファイナル進出の吉報を得るというドラマがありました。一度は敗戦の弁を口にしながら、歓喜の瞬間が訪れたシーンは今大会のハイライトのひとつでした。

「あ~、あれは本当に恥ずかしいし、ダサかったですね(苦笑)。きちんと確認しておけって話ですからね。親切で情報を教えてくれたアナウンサーさんに申し訳なくて、あとで謝りにいきました」

――敗戦を覚悟したのは、ラウンドロビン終盤までLSD(ラストストーンドロー。※試合前の練習後に投石して先攻・後攻を決めるものの平均値)の成績が下位だったこともあるのでしょうか。

「そうなんです。終盤を迎えるまで下から3番目ぐらいだったのかな。でも、言い訳するわけではないんですけど、本当に目の前の試合、もっと言えば(その日の)アイスの変化にみんな集中していて、今日は昨日の試合からどこを変えていくのか、それしか考えていなかったんです。

 今振り返ると恥ずかしいですけど、それでも試合に向かう姿勢としてはよかったと信じています。あの試合に本気で挑んで負けたことで、しっかりとデータもとれて、準決勝に向けてのいい準備ができた部分はあったと思います」

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