東京五輪から51年。ガンと闘う「名花」ベラ・チャスラフスカ (6ページ目)
一緒に停留所まで歩いた。4カ月前に大手術をしたとは思えない軽やかな足取りだった。停留所に並ぶ人の列を見て彼女は「あっ、電車がくる」と言い、私をもう一度抱き締めると「楽しかった。日本のみんなにお礼を言ってね。ありがとう」と口早に言い、走って電車に飛び乗った。遠のく電車を見送っていると、窓から腕がまっすぐ突き出てきた。人さし指と中指が立っていた。彼女からのピースサインだった。
日本では「病は気から」とよく言われるが、こんなにも強くて、へこたれない彼女の姿を見られるとは夢にも思わなかった。その姿はまるで樹齢600年という巨木を前にしたときと同じような迫力を感じた。そして、たくさんの約束をした。次回プラハで会うときにはビールとワインを浴びるほど飲む、オペラとバレエも見に行く、そして2020年の東京五輪で体操を一緒に見る……。握り締めた手の温かさを今も覚えている。
どうか本当に病を克服して、元気になってほしい。幾度も不死鳥のように甦った人だから、今度もまた信じている。
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