【体操】50年前の「ゆか金メダリスト」を今、採点すると? (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi photo by Getty Images

「50年前の採点方式は、5人の審判員が関与し、主審を除く4人の審判員が『実施5・0点』『難度3・4点』『構成1・6点』(合計10点満点)の配分の中で採点していました。そして最も高い得点と、最も低い得点をカットした残りの2名の審判員の平均値を出し、それを選手の得点にしていたのです。

 一方、現在の採点ルールでは、『難度点』の上限がなくなり、その難度の評価は2名の『D審判員(D=Difficulty/難しさ)』が採点します。一方、演技の出来栄えは5名の『E審判員(E=Execution/完成度)』が10点満点から減点して採点します。そして、そのうちの上下をカットした3名の得点の平均値がEスコアと呼ばれ、D審判員が採点したDスコアとの合計点が選手の得点になります」

 ではなぜ、そのように採点方式が変更されていったのか――。それは、「技の難度が上がるに従って、ひとりの審判員がすべてを採点するのが難しくなったから」だと遠藤氏は語る。

 50年前の採点方式は、『難度3・4点』が最高点だったため、それ以上の難度の技を行なう必要がなかった。しかし、東京オリンピックで日本チームが、当時最高難度の「C難度」の技にひねりを多く加えた「C難度以上の技」を披露した。これが、世間で良く知られている「ウルトラC」だ。このC難度以上の技が誕生したことで、難しい技をもっと評価しようという議論が発生。1968年のメキシコ・オリンピックでは、難度の高い技に挑戦するなら、出来栄えが悪くても減点を少なくしようという緩和ルールもできた。しかし今度は、「その評価は主観的で分かりづらい」という声が挙がり、その後、何度もルールを変更する試行錯誤が続いたという。その結果、現在では、難度を判定するD審判員と、出来栄えを判定するE審判員という分業制になった。

 そのような背景を踏まえた上で、東京オリンピックでの金メダリストの演技を、今の方式で採点してもらった。遠藤氏が例として挙げたのは、東京オリンピックの種目別ゆかで金メダルに輝いた、イタリア代表のフランコ・メニケリだ。

「メニケリ選手の演技は、『1回ひねり』のひねり技が一度のみで、A難度の技とB難度の技が5回ずつ、という内容でした。よって、現在のルールで採点すると、Dスコア(難度点)は3・5点になります。メニケリ選手が失敗することなく完璧に演技しても、Eスコア(出来栄え点)の満点は10点なので、合計でも13・500点にしかなりません」

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