【ミラノ五輪】マリニン「これがオリンピック」 敗北の王者に見たスポーツマンシップと一流選手の資質 (3ページ目)
【まるでコントロールできない感覚】
「理由はわかりません」
失意のマリニンは言葉を紡ぎ出す。
「氷の状態も、私が望むものではなかったかもしれませんが......。正直、スタートポジションについた時、今まで経験してきた記憶が押し寄せてきたんです。本当に圧倒されるような気分で、どうすればいいかわかりませんでした。これはオリンピックですから、他の大会とは違います。プレッシャーや緊張感は内側から感じるもので、まるでコントロールできない感覚でした」
あらゆる原因が入り組んでいて、敗因はひとつにくくるべきではない。
たとえば団体戦でSP、フリーのどちらも出場し、アメリカの金メダルに貢献したことも「体力的な消耗につながった」という意見がある。イタリアの団体銅メダルに貢献したマッテオ・リッツォ、ダニエル・グラスルも個人戦はいまひとつだった。鍵山もフリーは本来の演技ではない。
しかし、佐藤は団体の演技を力に変換し、スティーブン・ゴゴレフ(カナダ)は団体でSP、フリーとポイントを稼ぎ、個人も5位と健闘した。どちらにも転ぶのも団体戦で、マリニンの場合、団体、個人で"圧倒的な金メダル"の宿命を背負わされ続けたことが心身を削ったかーー。
特筆すべきは、マリニンが最大の敗北のなかでこそスーパースターの証を見せた点だろう。
演技直後、マリニンは顔を両手で覆い、カメラから逃げるように首を振っていた。彼自身も現実に目を背けたかったのだろう。後悔か、失望か。「信じられない」と顔を歪めた。
しかし、キス&クライで得点発表を聞いたマリニンは、すぐにライバルの健闘を讃えている。自分が落ち込むよりも、そばに座っていたシャイドロフのところに歩み寄って声をかけ、握手し、抱き締めた。フィギュアスケートはあくまで個人のスポーツだが、限られた空間だからこそ、同志を思い、リスペクトできるかが一流選手の資質である。
「見たか? マリニンは男のなかの男だ。負けて悔しいはずなのに、我らがシャイドロフに敬意を払っていた」
カザフスタンの国旗を持った男性は、そう叫んでいた。五輪の舞台で敗北を認められる精神こそ、真のスポーツマンシップだ。
「敗れざる者」
その肖像を結んだマリニンは、絶対的勝者であるよりもフィギュアスケーターとしての硬骨さを増していた。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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