【フィギュアスケート】樋口新葉が20年間の感謝をこめたランスダンス「あきらめない気持ちはずっと強く持っていた」 (2ページ目)
【フィギュアスケートはないとダメなもの】
「ショートもフリーも、今までで一番よかったと思う演技ができました。細かいミスは置いておいて、楽しく滑れました。やっちゃだめだと思いながら、最後だからいいかって(演技後の氷上で)大の字になりました」
樋口はあけすけに言った。飾らない言動も、彼女らしい。その奔放さも力の源だろう。
「自分の名前がコールされた時、今までで一番大きな声が聞こえてきて。本当に頑張ってきてよかったなって思いました。ダメになりそうな時、ここで終わりたくないって気持ちで続けてきて。あきらめない気持ちは、ずっと強く持っていました。足の痛みが消えないなか、先生に『あきらめずに頑張ろう』って言ってもらえて、1カ月、それで頑張れました。今は感謝の気持ちでいっぱいです」
取材陣に囲まれながら、樋口はさまざまな感情を持て余しながら、幸せそうに口角を上げた。こうして幸せを噛み締めながら、競技者としてリンクを去ることができるスケーターがどれだけいるだろうか。敗れざる者だった彼女は、最後に殊勲を上げていた。
「今シーズンも、思い描いていた形とは違うと思うんです。でも、全日本で納得いく演技できたこと、最後にこうやって終わることができたのは、なかなかないこと。演技に関しては納得しているし、あれ以上はできなかったと思います。フリーはずっと90点台だったのが、今回は130点を超えて。まだいけるんじゃないかって感じで終われたのがよかったですね」
樋口は、ひたすらスケートを生きてきた。ラストダンス、リンクで万雷の拍手を浴びる彼女は、その尊さを肌で感じたはずだ。
「自分は吹っ切れた時に一番力が出せるなって思っています。今日も、すごく吹っ切れて滑れていました。嫌な力が抜けてできたと思います」
樋口は自然と笑顔を輝かせて言った。その境地に入った時、彼女はリンクでエネルギッシュに体を弾ませ、観客を魅了した。生命力に満ちた滑りは、スケート賛歌だ。
最後、彼女は「スケートに何を与えられたか?」という問いに、こう答えていた。
「いっぱいありすぎてまとまらないんですけど......こんなにひとつのことを長く続けることは、なかなかないと思うんです。だから、すごく大事で、ないとダメなものです」
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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