高橋大輔から坂本花織ら次世代へ受け継がれる日本フィギュアスケートの「滑る」伝統 (4ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

●受け継がれる「滑る」伝統

 全日本強化合宿も、まさにそうしたプロセスの一部だった。ダナヒューコーチの熱烈な指導を受け、選手たちが目を輝かせていた。滑りが上達する感覚が手応えとしてあるのだろう。

「呼吸、そのタイミングが大事!」

 かみ砕いた端的な指導で、熱量が上がる。エッジワークの違いで、スケーティングに変化が出た。

 世界女王の坂本花織は能力の高さゆえか、短時間でも吸収力が高く、滑りのクオリティが上がった印象を与えた。

 また、坂本に追随する三原舞依は、少しも指示を漏らすまいと耳を立て、「先生はすごくパワーを感じられる人で、自分に足りない強さやパワーを学んで活かしたい。『エレガンスだけど、そこに強いメリハリを』と言ってもらって」とまっすぐな目で語っていた。

「滑らせるために、上半身を曲げるのではなく膝とか下半身を曲げ、力強く押し出す、という教えを先生から受けています」

 競技に復帰後に合宿に参加した樋口新葉も、高揚した表情でダナヒューコーチの指導について語っていた。

 当然、合宿に参加した男子選手も友野一希、島田高志郎、山本草太、佐藤駿、三浦佳生、そして北京五輪メダリストの鍵山優真が「滑り」と向き合っていた。

 わかりやすくハイスコアが狙えるジャンプだけに没入せず、カウンターひとつ、ブラケットひとつで、どれだけ印象が変わるのか。ダナヒューコーチは終始ユーモアで笑顔も交えながら、濃密な練習を続けた。

 高橋はアイスダンスを経て、競技者としてはリンクから去った。しかし、「滑る」伝統は受け継がれる。今シーズンも、氷上の舞は華やかだ。

プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る