高橋大輔から坂本花織ら次世代へ受け継がれる日本フィギュアスケートの「滑る」伝統

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

全日本強化合宿に参加した世界女王の坂本花織 photo by Noto Sunao(a presto)全日本強化合宿に参加した世界女王の坂本花織 photo by Noto Sunao(a presto)この記事に関連する写真を見る

●フィギュアスケートの基礎

 今年7月、大阪。フィギュアスケートの全日本強化合宿で、コーチとして招へいされていたザカリー・ダナヒューが、氷上の選手たちを高揚させていた。世界トップクラスのアイスダンサーとして活躍した滑りは伊達ではない。

「滑る」。ダナヒューコーチは、それを体現していた。下半身の使い方だけで、自在に速度が上がる。そのスケーティングの基本があるからこそ、演技が深淵に達するのだろう。制御が難しい氷上で、むしろ摩擦が最小限なことを利用し、地上ではできない変幻の動きができる。

「No, Noisy!」(うるさく音を立てないで!)。その声が会場に響いた。ダナヒューコーチはわざと格好をつけたような大げさな滑りで耳障りな音を立て、悪い例を実演する。その後、相反する軽快さとダイナミズムで、模範的スケーティングを披露した。

 選手たちから小さな感嘆の声が上がる。ゆったりとした体の重心移動だけで優雅に滑るのは、じつは簡単ではないのだ。

「滑る」。それはあらためてフィギュアスケートの基礎だ。

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プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

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