逆境を乗り越えた宇野昌磨のスケートの本質。期待したい笑顔の行方 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA/Enomoto Asami

 2020年の全日本は、284.81点を出すも2位で連覇は途切れている。しかしフリーでは、『Dancing On My Own』の報われない恋慕を表現しながら、観客を虜にした。

 3本目の連続ジャンプでトーループをパンクした後だった。あろうことか、彼は笑みを漏らしている。失敗をリカバリーする必要があったが、焦ってもどうにもならない。そこで腹をくくった。演技に没頭し、自らのスケートを見せることに集中した。そして、後半に2本の4回転トーループを跳び、トリプルアクセル+オイラー+3回転フリップを成功して挽回。今度は高揚感から、またも笑顔になった。演技直後には、小躍りしてはしゃいだ。

 トップレベルの競技者が、そこまであけすけに心を解き放てるのか。

「笑顔に深いものはないですよ。どの選手も、ガッツポーズしているときは、単純にうれしいもので」

 宇野は朗らかに言った。

「(フリーは)気づいたら自分の出番になっていた感じで。滑る前に30秒猶予があるんですが、あっという間だなって。次に気づいたら、3個目のジャンプをパンクしていて。試合でパンクはあまりないな、なんて思って、そこからいろいろ考えました。(どこに跳べなかったジャンプを入れるか)リカバリーができると、それも楽しくて! フィギュアスケートは見てもらって楽しんでもらう競技なので。自分で言うのもなんですけど、男子シングルは楽しめたと思うし、その一部になれてよかったなと」

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