羽生結弦は前を向く。トリノで語った4回転アクセルへの思い

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 フリーの194.00点という得点に羽生は「納得はいく」と言う。大きな得点源であるトリプルアクセルの成功は1本もなく、各要素でGOE(出来ばえ点)加点をしっかり積み重ねることができなければ大差になることはわかっていた。さらに今回の自分の演技が、「一生懸命なだけで、ひたすらジャンプ大会をしていただけのような感じも、自分の中にある」とも言う。たしかにつなぎの部分はいつもより複雑な滑りではなく、ステップも少し力を抑えるものだった。まだ滑り込んでいない構成だからこそ、ジャンプに集中するしかなかったとも言える。

「もちろん皆さんが見てくれる時にはいろんな背景があるから、すごく感動したと言ってくださる方もいたし、応援してくださった方もいたと思います。そこに応援の気持ちが入っていたからこそ、最後のポーズまで何とか(力を)絞り切れた。それがよかった、それが作品だったという風に言ってもらえるものになったと思うんです。

 ただそれが競技としてどうなのかという話になった時は、それは、『フィギュアスケートじゃなくてもできてしまう』という気持ちはあるんです。自分にとっては、4回転アクセルというのは王様のジャンプだと思うので、それをやったうえで、ジャンプだけではなくてフィギュアスケーターとしてちゃんと完成されたものにしたいという気持ちが強い。ただ前提として、それがかなり難しいことは、自分でもわかっています」

 納得はできないながらも、その時の自分がやりたいと思ったことを実行でき、自分のフィギュアスケートへの思いも伝えることができた大会。不完全燃焼とも言える戦いの中で、羽生は次につながる道を、少しだけでも前へ進もうとしていた。それが4回転ルッツへの挑戦であり、4回転アクセルに挑戦する姿を見せ、それを完成させることを公言することだった。

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