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マーベラスの「陰」の存在になっていた宝山愛が、「令和のクラッシュ・ギャルズ」暁千華を相手に見せた異常な試合 (2ページ目)

  • 尾崎ムギ子●取材・文 text by Ozaki Mugiko

【「てめえ、殺すぞ!」親族に包丁を向けた幼少期】

 宝山は2003年、愛知県安城市に生まれた。オカダ・カズチカ、中野たむと同郷である。

 家族は父、母、そして異父の兄。両親は宝山が小学校1年生の時に離婚した。親族は仲が悪く、それが原因となった「映画並みのヤバい話があります」という。

「玄関先で大乱闘になったことがあって、自分、親を守ろうとして、親族を包丁で刺そうとしたんですよ。親に止められなかったら、ガチで少年院に入っていたと思います。『てめえ、殺すぞ!』っていう気持ちを抑えられなかった」

 ダンプ松本の半生を描いたNetflixシリーズ『極悪女王』に、ダンプが父親に対して殺意を抱いたことがきっかけで、ヒールとして覚醒するシーンがある。ドラマはフィクションだが、ダンプが道楽者の父親に殺意を抱いていたのは実話である。宝山の根っこにある「てめえ、殺すぞ!」という感情は、彼女のプロレス人生を語るうえで大きなカギとなるだろう。

 母は大のプロレスファン。宝山がお腹にいる時も観戦していたため、「生まれる前からプロレスの英才教育を受けていた」と宝山は笑う。ドラゴンゲートの追っかけをしていた母に連れられて、宝山も子どもの頃から他県までプロレス遠征をしていた。小学校3年生の頃には、彼女自身もプロレスに夢中になった。

 小学校では、活発でやんちゃだった。友だちとドッヂボールをしたり、授業を抜け出して遊びに行ったり。しかし、中学に上がるとクラスメイトに仲間外れにされ、友人関係を築くのに恐怖心を抱くようになった。ネガティブな性格になり、「担任の先生がいなかったら死んでいた」と話す。

「熱い先生で、夢を持つことの大切さを教えてくれました。小学生の頃から『プロレスラーになりたい』と思ってはいたけど、口に出すのって恥ずかしいじゃないですか。でも、その先生の影響で、夢を語れるようになったんですよね」

 中学2年生の時、長与千種と彩羽匠の電流爆破マッチを観た帰り道、母に「プロレスラーになりたい」と打ち明けた。微妙な反応だったが、「入るんだったらマーベラスにしなよ」と言われた。母は長与のファンで、長与の団体なら信頼が置けるだろう、ということだった。

 宝山自身も彩羽のファンで、マーベラスの大会後に売店で彩羽とツーショットを撮ったこともある。彩羽のようなカッコいい人になりたい。そんな思いから、マーベラスへの入団を決意する。中学卒業後の2019年3月、マーベラスで定期的に開催されている保護犬の譲渡会に参加し、練習生となった。「譲渡会の日に"譲渡"されました」と笑う。

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