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女子プロレス界のトップ、彩羽匠が抱く決意「長与千種の遺伝子が里村明衣子で終わってほしくない」 (4ページ目)

  • 尾崎ムギ子●取材・文 text by Ozaki Mugiko

【引退を発表した"横綱"里村明衣子との死闘の末、涙の決意】

 今年7月、"女子プロレス界の横綱"こと里村が来年4月に引退すると発表した。彩羽は焦った。里村とはこれまでに2度シングルマッチを行ない、勝てていない。勝ち逃げされるわけにはいかない――。彩羽は里村との再戦を望み、10月27日、マーベラス名古屋大会で実現した。

 15分1本勝負。長いロックアップが続く。じっくりとお互いの出方を見るが、先に攻撃を仕掛けたのは彩羽だった。激しい蹴り。雄叫びを上げる。しかし里村はひるまない。冷静に、着実に、里村明衣子のプロレスをする。

 彩羽は叫び続ける。あんなにも声を張り上げる彩羽を見たのは初めてだ。不安、焦り、嫉妬......己の弱さをすべてかき消そうとするかのように、彩羽は叫び続けた。必殺技のランニングスリーを仕掛けるも、決まらない。それでも彩羽はランニングスリーを繰り出す。必殺技が決まらなければ、"横綱"に勝つことはできない。

 こんな名勝負があるだろうか。こんな女子プロレスがあったのか、と息をのむ試合だった。結果は、15分ドロー。もう一度......もう一度、やらせてほしいと、ふたりは長与に直訴した。

 試合後、バックステージで里村は言った。

「(彩羽は)レベルが違いますよ。女子プロレス界のトップですよ。技の的確さといい、すべてにおいてトップ。正直、前は自分のほうが上だと思っていた。そんな感情は今日でなくなったので、もう一回私のほうからお願いしたいと思います」

 続いて、彩羽がバックステージにやってきた。涙を流している。

「間が詰められないし、いつもの自分の技につなげられないし、一発やるのにどんだけの労力がいるか......。里村戦を通じて、いつも『今ならイケる! 今ならイケる』と思っているのに、自分のムードに持っていけないし、でもこれが本物だと思うし。自分のこと生温いと思ったことないし、生温いプロレスしているつもりもないけど、今日勝てなかったのは......自分のプロレスを見直さなきゃいけないと思う。

 こんなプロレスラーと闘えるチャンス、こんな女子プロレスラーに出会えることってこれからあるのかな、というくらい自分にとっては大きな壁だけど、その壁を潰して、自分が前に立つ。里村さんが引退するまで半年くらい。絶対、もう一回チャンスをつかみます。長与千種の遺伝子が里村明衣子で終わってほしくないから。勝つ。それだけです」

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