かつての長与千種を動画で見て「この人、死んじゃうよ!」 彩羽匠はいかにプロレスにとり憑かれ、リングに上がったのか
■『今こそ女子プロレス!』vol.23
彩羽匠 前編
Netflixシリーズ『極悪女王』配信に先駆け、9月12日に後楽園ホールで配信記念イベント「ネトフリ極悪プロレス」が開催された。熱気溢れる超満員の会場の隅で、私はひとり戦々恐々としていた。近年、女子プロレスの興行で後楽園ホールがここまで満員になったのを見た記憶はない。今日ここで試合をする選手たちは、これだけの観客を前に何を思うのか......。
対戦カードは、〈唐田・剛力軍団〉彩羽匠&桃野美桜&Maria&川畑梨瑚vs.〈ゆりやん軍団〉ドレイク森松&永島千佳世&DASH・チサコ&ZAP-T。『極悪女王』で描かれるクラッシュ・ギャルズvs. 極悪同盟の代理戦争である。
マーベラスのエースとして闘う彩羽匠 photo by 林ユバこの記事に関連する写真を見る
試合はヒール軍団の暴走で大荒れ。手に汗握る展開のなか、大混戦を締めたのはマーベラスのエース、彩羽匠だった。長与千種に憧れてプロレスラーになった彩羽が、最後は長与直伝の必殺技ランニングスリーでドレイクにフォール勝ち。試合後、彩羽はマイクを持った。
「もっとこれから女子プロレスを盛り上げて、もっとウチら命削っていきましょう。女子プロレスをよろしくお願いします!」
命を削る――。彩羽がこの言葉を発した意味を考えると、涙を禁じ得ない。度重なる大きな怪我に悩まされ、幾度となく引退を考えた。体にはいくつものボルトが入っている。それでもエースである自分が辞めるわけにはいかない。マーベラスのエースというだけでなく、女子プロレス界のエースであるという自負がある。
「昔はコンプライアンスというものがなくてやりたい放題だったけど、今は暴力的と思われるものとか流血とかが、世間的に受け入れられない。難しい時代ですけど、マーベラスのプロレスはそこも受け継いでいるつもりです。命を燃やしているという感覚は、昔も今も変わらないと思う」
プロレスラーにインタビューをすると、「この人は本当にプロレスが好きなんだな」と感じることがよくある。しかし彩羽の場合、「好き」という次元を超えて「とり憑かれている」ように思えて、戦慄を覚える。
彩羽匠はいかにして、プロレスの魔力にとり憑かれたのか。
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