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かつての長与千種を動画で見て「この人、死んじゃうよ!」 彩羽匠はいかにプロレスにとり憑かれ、リングに上がったのか (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●取材・文 text by Ozaki Mugiko

【リング上で闘う少女に「この人、死んじゃうよ!」】

 プロレスとの出会いは高校生の時。パソコンを使う授業中にYouTubeを開くと、北斗晶vs. 神取忍の試合がトップに出てきた。1993年の横浜アリーナ。壮絶な流血喧嘩マッチを繰り広げたことで、勝敗を超えた名勝負として語り継がれている試合だ。

 プロレスラーはただ殴り合って、勝敗が決まる。時には凶器を使い、流血をする。プロレスに対してはその程度のイメージしかなかった。しかし北斗と神取の試合を観て、「プロレスラーにはこんな感情があるんだ」ということに驚いた。普段、感情を押し殺して生活していた彩羽が、リング上で「これでもか」と露になる感情に心を動かされたのは必然だった。

 プロレスに夢中になるうちに辿り着いたのが、1985年に行なわれた「敗者髪切りマッチ」だ。自分と同じ年くらいの少女たちが、髪の毛を懸けて闘っている。しかもひとりは凶器を使い、もうひとりは流血しても立ち向かっていく。

 流血している少女の名前は「長与千種」だと知った。名前の読み方もわからないが、彩羽は少女に夢中になった。相手との圧倒的な体格差があり、一方的にやられるだけでほとんどやり返せていない。「この人、死んじゃうよ!」と思った。それでも、少女の目は死んでいない。セコンドにタオルを投げられても投げ返す。負けたあとも「負けてない!」と叫び続ける少女に、彩羽は恋をした。

 寝ても覚めても、長与のことが頭から離れない。学校にDVDレコーダーを持参し、授業中も昼休み中も、ずっと長与の映像を見た。なぜそこまでして闘うのか。自分もその原動力を知りたいと思った。気づいたら「自分もプロレスラーになりたい」と思っていた。

 プロレスに出会う前の彩羽は、人に興味がない、テレビにも興味がない、冷めた子供だった。それがプロレスに出会ってから、クラスでプロレスごっこをするようになった。プロレスラーの痛みを知りたいと思い、男子に「上から投げて」と頼み、ベンチの上からボディスラムで投げられたこともある。あばらが折れたが、プロレスラーの痛みを知ることができてうれしかった。生まれて初めて、熱くなれるものを見つけた。

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