「そんなことやって何になるんだ」家族の反対を押し切ってプロ宣言 女子ボクサー・藤原茜はなぜアラフォーになっても闘い続けるのか (2ページ目)
もちろん、楽しいことばかりではないはずだ。プロの世界は厳しい。ボクサーである以上、減量もある。こんな時代に何かを犠牲にしなければ、リングに立つことすら許されないのがボクサーのはずだ。
「何かを我慢したり、何かを犠牲にしてリングに立っているとは思えないです。練習するのも、減量するのも、試合のため。何かを捨てているというより、何かを追いかけている気がします。
それに私、減量好きなんです。体重が落ちていくのは、女子的にもうれしい(笑)。『痩せたら可愛くなるなぁ』とか、『めっちゃ腹筋割れてて、くびれててカッコいい!』みたいな」
ジムメイトから「姉さん」と呼ばれる彼女だが、その呼称とは似つかず、泣き虫だ。そのハートは、固形ですらなく液体。「私、豆腐どころか、豆乳メンタルなんです」と彼女は笑う。
もはや試合前の控え室で泣くのが恒例。泣きながらアップのミットを打ち、リングインのわずか5分前まで泣いている。
「いまだに涙のわけがわからないんです。緊張のせいかもしれないし、もしかしたら怖いのかもしれない。やってきたことが出せるか。やっぱり自分に期待してるから」
プロになると宣言した時、彼女の父親は「そんなことやって何になるんだ」とぶっきらぼうに言った。ただ、出場する試合はすべて会場を訪れ、リングインの際は花道の先頭で声を枯らしながら、娘をリングに送り出す。
どうせ会場に来るならと、彼女がチケットのもぎりを頼むと「なんで俺がそんなこと」と毎度愚痴をこぼす。
最初は娘の試合前によく泣いていた母は、今では涙を見せない。「娘がボクシングをすることをどう思ってるの?」とよく聞かれるが、そのつどこう答える。
「この歳になっても、娘の成長を見られたり、応援できたり、役に立てるのがうれしい」
彼女がボクシングを始めてから、10年の月日が経とうとしている。
その間、日本女子フェザー級王座、WBO女子アジアパシフィックスーパーバンタム級王座、OPBF東洋太平洋女子スーパーバンタム級王座、3度ベルトを巻くチャンスがあった。しかし、3度とも失敗。
「ボクシングを辞めようと思ったことはないけど、昨年3度目の挑戦で判定負けした時は、『ヤバッ。一生ベルト獲れないかも』って。3回もチャンスをいただけるって、なかなかないことなのに。
ただ、いつかベルトを獲れれば、重ねた失敗の数だけ笑い話に変わるって信じてます。自分の人生の物語は、自分で描かないと」
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