検索

「恵子、プロになれ」試合出場を却下され続けた女性ボクサーを勇気づけた盲目の指導者の言葉「ずっと誰かに言ってほしくて」 (3ページ目)

  • 泊 貴洋●取材・文 text by Takahiro Tomari
  • 山本雷太●撮影 photo by Yamamoto Raita

【結婚してから、よく笑うようになった】

 後日、恵子さんが数ヶ月に一度のペースでボクシング講師をしている、台東区の「Girl's Fun Boxing Gym」へ。この日見られたのは、女性ボクサーのスパーリング相手をしている恵子さんだ。柔術同様、そのキレのある動きとパワーは健在だ。そして印象的だったのは、恵子さんの笑顔。現役のファイター時代とはまるで異なり、柔和な雰囲気が漂う。

「周囲の人にも、よく『変わったね』と言われます。特に結婚してふたりで暮らすようになってから、よく笑うようになりましたね。主人にも言われます。『俺のおかげだ』って(笑)」

 2017年に他界した真闘ジムの佐々木会長も、その笑顔の功労者だろう。『ケイコ 目を澄ませて』で会長にふんしたのは、三浦友和。その妙演とともに必見なのは、3カ月の特訓を経て撮影に挑んだという、ケイコを演じる岸井ゆきののボクシングシーンだ。

ジムの会長を三浦友和が演じたジムの会長を三浦友和が演じたこの記事に関連する写真を見る「私がボクシングを始めて3カ月の時は、本当に下手でした。ゆきのさんが、3カ月であの動きができたのは、すごい」

 そう話して笑顔を見せる恵子さんに今後の目標を聞くと、「手話柔術教室をずっと続けたい」と答えた。

「名古屋や宮城から教室に来てくれた人もいて、帰ってからは地元で柔術を始めてくれています。もっと聞こえない人に興味を持ってもらって、輪のなかに入ってきてもらえたらうれしい。これからも手話柔術の教室を長く続けていきたいです」

この記事に関連する写真を見る
インタビュー前編<いじめで不登校、無視したとケンカを売られ...耳の聞こえない女性がプロボクサーになるまで「臆病者だから、強くなりたかった」>

協力/Splicing Brazilian Jiujitsu Girl's Fun Boxing Gym 東京手話通訳等派遣センター

参考文献/小笠原恵子著『負けないで!』(創出版)

場面写真/(C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会 COMME DES CINÉMAS

【プロフィール】
小笠原恵子 おがさわら・けいこ 
元プロボクサー。1979年、埼玉県生まれ。21歳からボクシングジムに通い始め、2010年4月にプロテスト合格。同年7月、プロデビュー戦に勝利する。2011年、3戦目となる試合でTKO負けするも、2013年に2年ぶりの試合で勝利して引退。2011年、自伝『負けないで!』(創出版)を刊行。現在は手話とブラジリアン柔術を学べる「手話柔術教室」を開いている。

【作品情報】
『ケイコ 目を澄ませて』
監督/三宅唱
原案/小笠原恵子『負けないで!』(創出版)
出演/岸井ゆきの、三浦友和、三浦誠己、松浦慎一郎、仙道敦子、中村優子、渡辺真起子、佐藤緋美、中島ひろ子
配給/ハピネットファントム・スタジオ
ゴングの音も、セコンドの指示も聞こえない。生まれつきの聴覚障害を抱えながらボクシングのプロテストに合格し、リングに立ったケイコ。デビュー戦で勝利を収めたものの、実戦の恐怖や周囲の心配を感じ、心に迷いが生じ始める。そんな時、会長の体調不良や経営難から、ジムの閉鎖が決定。ケイコは再び試合に挑む......。2022年のベルリン国際映画祭や東京国際映画祭に正式出品された話題作。「映画を見て、自分も何かにチャレンジしてみようと思ったり、やりたいことを諦めないで実行してみようと思ったりしてもらえたらいいなと思います」(小笠原恵子さん)

12月16日(金)テアトル新宿ほか全国公開
公式HP>>

【著者プロフィール】
泊 貴洋 とまり・たかひろ
ライター。雑誌『演劇ぶっく』(現・えんぶ)の編集者時代に、演劇と映画の学校「ENBUゼミナール」の立ち上げに参加。1999年、映画雑誌『ピクトアップ』を創刊。2004年、独立してフリーライターに。以降、『日経エンタテインメント!』や『Pen』などの雑誌やウェブ媒体にて、映画監督、俳優、クリエイター、企業人などへの取材を行なう。著書に『映画監督への道』、『ゼロからの脚本術』(ともに誠文堂新光社)、『映画監督になる』シリーズ(演劇ぶっく社)などがある。

フォトギャラリーを見る

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る