レスリング・文田健一郎が狙う五輪金メダル。父直伝の技で恩返しを (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kyodo News

 山梨の実家にいた頃から遊びにくる猫をかわいがっていたが、本当に好きになったのは大学に入って"猫カフェ"に行くようになってからだという。

「気づいたら猫好きになっていました。日常的に使うモノに猫柄や猫をモチーフにしたものを使っています。彼女が犬派ならですか? 猫の魅力について、すごく丁寧にプレゼンします。パワーポイントで(笑)」

 猫レスラーと呼ばれる所以は、文田の得意技である「反り投げ」にもある。首から腰にかけて関節が柔らかく、とんでもない体勢から技を繰り出し、相手を投げ飛ばしてしまう。その柔らかく俊敏な動き、そして背中から落ちないのも猫と同じである。

「反り投げをするようになったのは中2の終わりぐらいです。父に教えてもらい、そこから得意技になっています。柔軟性を武器にする投げ方をしているので、相手をいろんなポジションからいろんな方向に投げられるんです。それが自分の強みです」

 文田の反り投げ──それは60キロ級を戦う選手であれば、誰もが警戒する大技だ。文田は、2019年の世界選手権までは研究されても「反り投げで勝つ」と強い気持ちで戦い続け優勝したが、同時にかなり研究されていることも実感したという。

「このままだとまずいと思い、東京五輪が1年延びたことを機に相手が反り投げを警戒してきた時に別の技、たとえば首投げ、巻き投げとかで仕留めるということに取り組んできました」

 伝家の宝刀を「出すぞ」と見せつつ、ほかの技で投げ勝つ。相手がその技を警戒すれば、反り投げで勝つ。文田と戦う選手にとっては、体力はもちろん、心理戦でもかなり消耗し、厳しい戦いを強いられることになるだろう。

 東京五輪で文田が見据えるのは、金メダルだけだ。そして太田には、なんとしてもいい報告をしたい人がいる。

「高校の時は僕が結果を出しても、父は喜ぶ姿を見せなかったんですけど、大学に入り指導から離れると、すごく喜んでくれるようになったんです。僕のレスリングは、父がいなければここまでつくり上げることはできなかった。そういう父への恩返しのひとつとして、金メダルを獲らないといけないと思っています」

 文田が小学生の時にレスリングシューズを与え、その後も我が子の潜在能力と将来に期待し、レスリングを教えてくれた。そんな父から託された夢を、文田は金メダル獲得によって果たすつもりだ。

プロフィール
文田健一郎(ふみた・けんいちろう)/1995年12月18日、山梨県生まれ。グレコローマンスタイルの選手だった父・俊郎氏の影響で小学生からレスリングを始める。韮崎工業高では国体を3連覇するなど、史上初のグレコローマン高校8冠を達成した。日本体育大に進むと、全日本レスリング選手権2連覇、世界選手権優勝など、数々のタイトルを獲得。2019年の世界選手権で優勝を飾ると、東京五輪の代表に内定した。得意技は反り投げ。現在はミキハウスに所属

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毎週日曜日 15:30〜16:00

スポーツジャーナリスト・佐藤俊とモリタニブンペイが、毎回、旬なアスリートにインタビューするスポーツドキュメンタリー。
強みは機動力と取材力。長年、野球、サッカー、バスケットボール、陸上、水泳、卓球など幅広く取材を続けてきた二人のノウハウと人脈を生かし、スポーツの本質に迫ります。
ケガや挫折、さまざまな苦難をものともせず挑戦を続け、夢を追い続けるスポーツヒーローの姿を通じて、リスナーの皆さんに元気と勇気をお届けします。

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