【ボクシング】平成のKOキングが拳で掴んだ「一番のご馳走」 (5ページ目)

  • 水野光博●文 text by Mizuno Mitsuhiro  是枝右恭●撮影 photo by Koreeda Ukyo

「よく言うのは、『熱を持って行動すれば、いつか必ず熱が返ってくる』ってことです。熱という言葉を言い換えるなら、"愛"、です」

 引退から8年――。坂本に、「今、一番のご馳走は?」と聞いた。少しの間、考える姿を見て、「妻のハンバーグ」という答えが返ってきたら、でき過ぎた話だろうかと思っていると、坂本が口を開いた。

「サラダがあり、ご飯があり、お新香があり、肉があり、そしてみそ汁......。割り箸やプラスチックの器ではなく、ちゃんとした箸と茶碗。そして、目の前には妻。日常の食事、それが一番のご馳走です。何をどこで食べるかじゃない。誰と何を食べるか。妻が手作りしてくれたものを一緒に食べるのが、一番美味しい」

 神様にケンカを売るために、その拳を強く、強く握った。「運命よ、そこをどけ」と、立ちふさがる者はその拳でなぎ倒した。15年のボクサー生活。リングから降りた今、強く握ったその拳をゆっくりと開けば、何も握っていなかったはずの掌(てのひら)にあったのは、"日常"と言う名の愛だった――。


photo by Koreeda Ukyophoto by Koreeda Ukyo【Profile】
坂本博之(さかもと・ひろゆき)
1970年12月30日生まれ、福岡県田川市出身。1991年12月にプロデビューし、1993年に全日本ライト級王者となる。1996年にはOPBF東洋太平洋ライト級王座を獲得し、1997年に世界初挑戦するも判定負け。その後、1998年から2000年にかけて3度、再挑戦するが世界タイトル奪取は叶わず。2007年に現役を引退。現在は東京都荒川区でSRSボクシングジムを経営している。右ファイター。47戦39勝(29KO)7敗1分。

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