土居美咲が深い傷を負った20歳の冬 日本テニス界から見放され、海外に生きる道を求めた (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

 いずれも、日本テニス界との縁故は皆無と言える指導者たち。その間に土居はWTAツアーでシングルス初優勝を手にし、2016年10月にはキャリア最高位の30位に到達した。

 それら海外のコーチたちから得たものや、恩恵とはなんだったか? その問いに、土居はこう応じる。

「たぶん一番の利点は、信じる力が本当に強くなるっていうところ。やっぱり日本人の性格上というか、コーチもちょっと不安だったり、本当にできると選手に信じさせられるか......言葉が難しいけれど、選手に不安を悟られてしまうところがあると思うんです。それを外国のコーチは、 自分以上に信じてくれるという力がかなりあって。それは今まで、私が教えてもらったコーチに共通していることです。

 もちろん、ツアーを経験している上位の選手を教えた経験も大きいとは思いますが、選手の可能性を信じてくれるっていうのがすごく大きい。技術的な面では、日本人のコーチのほうが教えるのはうまい方が多いとは思うんです。でも、上に行くうえで壁を破るためには、外国人コーチはおすすめかなと。

 ただ、もちろん相性もありますし、文化の違いで挫折する選手も正直、数多く見ている。それでもコーチに限定しなくても、海外を拠点にしてみるとか、トレーナーさんなど選択肢はあると思うんです。海外の人と関わりを持つことで視野も広がると思いますし、一回ぐらいは挑戦してみるといいんじゃないかなとは個人的には思います」

 そのような「視野が広がる」ことの効能を誰よりも体現しているのが、かつては自他ともに認める「人見知り」だった土居自身だ。

 コロナ禍中には、若手選手たちに声をかけ、クラウドファンディングで資金を集めてイベントを実現した。一昨年からは「アスリート委員会」の理事として、テニス界の改革のために会議の場でも意見する。最近ではテレビ解説にも挑戦。アスリートとしては第一線を退いても、選択肢は数多くあるだろう。

 小さな町からラケットを手に世界へ飛び出した少女は、自らの手で道を切り開き、後進に進路を示し、そしてこれからも、自分の足で歩んでいく。

<了>


【profile】
土居美咲(どい・みさき)
1991年4月29日生まれ、千葉県大網白里市出身。6歳からテニスを始め、2008年12月に17歳8カ月でプロ転向を表明。2015年10月のBGLルクセンブルク・オープンでWTAツアーシングルス初優勝を果たす。2016年のウインブルドンでは初のグランドスラム4回戦進出。オリンピックには2016年リオと2021年東京の2大会に出場。2023年8月に現役引退を発表。WTAランキング最高30位。身長159cm。

著者プロフィール

  • 内田 暁

    内田 暁 (うちだ・あかつき)

    編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。

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