19年のキャリアに幕...天才テニス少女・森田あゆみが歩み出す指導者の道「苦労している若い選手のサポートがしたい」 (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【ケガをして、上も見て下も見られてよかった】

 結果的に度重なるケガは、森田の選手生命を短くしたかもしれない。それでも「やれることは、やりきったなって思いました」と、彼女は笑顔をのぞかせた。

 少女時代から「自分のやるべきことがわかっていた」と言う彼女は、これから進むべき道もわかっている。丸山淳一コーチとともに、この秋にもまずはふたりで「指導者チーム」を立ち上げる。指導対象は問わない。自分たちの助けを必要とする者になら、誰にでも手を差し伸べるつもりだという。

「本当に、ジュニアでも若手の選手でも構わない。一番に伝えたいことは、楽しんでのびのびやってほしいということです。もちろん結果も大事ですが、結果を出すためにも、試合でも練習でも日々楽しくやることが、まずは大事だと思います。

 そのあとは、強くなるために今の自分には何が必要で、これから何をしていくべきかを認識し、それを日々意識しながら取り組みを続けてくことが、重要なんじゃないかなと思います。そこがわからないまま頑張るだけでは、目標に到達するのはたぶん、すごく難しいと思うので。

 自分が指導していくうえでは、こういうことが必要だよと一方的に言うだけではなく、コミュニケーションを取りながら、選手自身がそこをちゃんと理解して、前向きに取り組めるように育てていきたいなって思います。それができると、試合のコートでも自分で何をやるべきかわかると思うんですよね」

 そのような指導理論を信じられるのは、自身が恵まれた環境のなかで、優れた指導者に出会えたという感謝があるから。

 そしてグランドスラムなどのトップステージの煌びやかさも、下部大会の過酷さも知っているからだ。

「2年ほど前から、選手を辞めたら育成とかをしてみたいという思いは、ずっとあったんです。そう思えたのは、ケガをしたことが大きかったと思います。

 ケガをしていた時に下部大会に行って、苦労している若い選手の姿も見た。そのクラスの大会だと、みんなコーチをつけられず、ひとりで遠征に行っている。そういう選手たちをたくさん見て、何かサポートできたらなと思ったのが、自分がコーチをやりたいと思ったきっかけです。そういう意味では、上も見て下も見られてよかったなって、今は思います」

 少しテニスから離れて、ゆっくりしたいとは思わないのか──?

 そんな素朴な疑問を向けると、「思わないんです。遊んでいるより、何か頑張っているほうが好きなので!」と、屈託ない笑みが返ってきた。

 彼女は引退を終わりではなく、新たなキャリアの始まりと捉えている風情だ。勝利の歓喜も、ケガの苦汁も、味わった自身の経験を未来へつなぐため、選んだ道へと歩みを進めていく。

<了>


【profile】
森田あゆみ(もりた・あゆみ)
1990年3月11日生まれ、群馬県太田市出身。2004年、史上最年少14歳(中学3年生)で全日本テニス選手権ベスト8入りを果たし、「天才テニス少女」と呼ばれる。2015年4月には当時日本人最年少15歳1カ月でプロ選手となり、その2カ月後に全仏OP女子ジュニアで準優勝。日本人スポーツ選手として初めてアディダスとグローバル選手契約を締結する。2011年10月に自己最高の世界ランキング40位を記録するも、2014年から故障によって何度もツアー離脱を余儀なくされる。2023年8月に現役引退を発表。身長164cm。右利き。

プロフィール

  • 内田 暁

    内田 暁 (うちだ・あかつき)

    編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。

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