「元・天才テニス少女」が引退を決意した切実な理由 森田あゆみ33歳「寝られない。腹筋1回すらできなかった」
森田あゆみ「引退インタビュー」前編
「今までは、努力できれば可能性はあると思っていたんです。でも、今の自分の体調を考えたら、努力が続けられる状態ではなかったので......」
特に表情を曇らせることも、言いよどむこともなく、森田あゆみは「引退」を決意した理由を、淡々とそう語った。
キャリアの幕引きを公式に発表したのは、今年8月。ただ、彼女の心は、春先にはすでに決まっていたという。
「天才少女」と騒がれた当時14歳の森田あゆみ(写真●Getty Images)この記事に関連する写真を見る 15歳で全日本テニス選手権を制し、一躍注目を集めた。初めてグランドスラム本戦に上がったのは17歳の時。日本テニス界の期待を一身に背負った「かつての天才少女」の、33歳の決断だった。
18歳を迎えると同時に、世界ランクトップ100入りをも果たし、21歳の時には結果的にキャリア最高位となる40位に至る。
若いながらも豊かな経験が心・技・体と噛み合い、さらなる前途が開けたかに見えたキャリアの成熟期の始まり──。だが、この頃から森田は、慢性的なケガに悩まされるようになる。
腰痛に端を発し、手首と手の甲に、合計4度もメスを入れた。
ランキングの消失を避けるために年に数回は大会に出るも、年間を通じてツアーを転戦するには至らない。2015年から2021年までの7シーズンで、出場した大会数は24。昨年は11大会に出場するも、「安定して試合に出られる体調ではなかった」と明かした。
ここ数年、試合出場を阻んだものを、彼女は「ケガ」ではなく「体調」だと繰り返し表現した。
それは、手首や腰の痛み以外を指すのか......?
純粋に疑問に思いたずねた時、彼女は初めて微かに顔をしかめ、口にすべき言葉を探し始めた。
「けっこう、精神面からくる体調不良で......。自分では全然、そんなに精神的にきている感じはなかったんですけど、知らず知らずのうちに溜まっていたようで。一時期、ちょっと不調になってしまったんです」
努力が続けられる状態ではない──。冒頭に記した独白の真意は、心の陥穽(かんせい)にあった。
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著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。